第1章 砂漠の月00~70
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とあるクラスで、一人の少女が密かに話題になっていた。
夏休みが始まる前までは小野月子という名だったその少女は、夏休み明けの新学期から毛利月子となりあの毛利元就の妹として学園に通っている。
「なぁ……小野じゃない、毛利って最近なんか可愛くなってないか?」
「ああ、俺もそれ思ってた。このクラスになった時は全然そんな感じじゃなかったのにな」
「夏休み入る少し前から、なんかすげぇ可愛く見える時があるよな」
休み時間、教室移動もなく暇な男子生徒たちが集まって教室の一角で授業準備をしている月子を見ながらヒソヒソと噂をしている。
月子はふと視線を感じて顔を上げたが、周りを見ても誰もこちらを見ていないことに首を傾げてまた顔を机へ戻した。
その様子をホッとしながら見ていたのはクラスメイトの男子で、再びチラチラと月子を見ながら何処が良いとか、何が良いとか言い合いを始める。
そんな時、ガラリと教室の扉を開けて顔を出した人物が居た。
「お、居たな。月子!」
「晴久先輩? どうしたんですか?」
顔を出したのは尼子晴久で毛利元就、織田市と共に居る人物で、月子が可愛くなり始めてからよく一緒に居るのを見かけるようになった人物だった。
晴久に呼ばれた月子は、無表情だった顔に嬉しそうな可愛らしい笑みを浮かべて答え扉に駆けていく。
男子生徒たちはその人物の登場に軽く舌打ちすると、視線を向けられて慌てて逸らすと鼻で笑うような声が聞こえて身体がビクリと跳ねた。
何やら嬉しそうな声で話す月子を見たいが、視線を向ければ晴久に睨まれるため見ることが出来ない。
話が終わって晴久を見送った月子はまた無表情に戻ってしまうため、可愛らしい表情を見れるのはクラスメイトでも女子だけである。
「……なんで俺らは見れないんだ?」
「そんなの、あんた達が突然態度変えた大馬鹿者だからでしょ?」
「そうそう、小野さんは可愛いのよ。本人無自覚だし、今までは何でか知らないけど感情の起伏が少なかったから注目されなかったけど」
「やっぱ、恋は偉大なのねぇ」