第1章 砂漠の月00~70
「月子の親は欲が深過ぎる故。この数カ月、織田が派遣した家政婦が監視と教育をしていたが、考えを改めることをせぬ。月子がいる限り無理だろうと判断して、毛利に引き取ることにした」
「月子はそれで良いのかよ……」
「その……」
「怒らぬ、正直に述べよ」
元就が目を閉じ、淡々と説明する横で月子が複雑そうな表情をしていると晴久が心配そうに声を掛けてくる。
月子は迷いながらも元就が大丈夫だと頷くので、思い切って今の心境を伝えることにした。
「晴久先輩に初めて声を掛けた頃は、正直に不満はないと思い込んでました。自分は何も出来ないし、親の言う方と結婚するくらいしか役に立たないから、と……。でも、晴久先輩たちと話すようになって、市先輩にお泊り会とか呼んでもらって別の場所から見るとこんなにも不満があったのかって……」
「月子……」
「そう気付いたら、私を見る度に市先輩たちの事しか聞かない両親に私は必要ないんじゃないかって……。でも、両親の子供である以上避けられないので、元就先輩のお誘いはありがたかったです。流石に、織田グループの直系には怖くって」
市先輩、ごめんなさいと情けない顔で言った月子に、市は良いのよと苦笑して頭を撫でる。
元就はよう言うと呆れながら、ペチリと月子の額を叩き首を竦める様子を眺める。
「其方は我の言葉に頷くまで暫くかかったであろう」
「それは! だって、ご迷惑をお掛けしたくなくて……」
「迷惑ではない。と、何度言えばわかる」
「うー……だって、今後の生活全て関わってくるんですよ?」
「迷惑なら最初から言わぬ。二人がなんと言おうと追い出しておるわ」
元就の言葉に拗ねたように反論する月子の様子に、市と晴久は顔を見合わせる。
兄妹のやり取りそのものの様子を見れば、これが最良だったのだと思え二人は苦笑した。
何にせよ、月子が幸せになるなら良いと頷き合って、市と晴久も月子を撫でる。