第1章 三成さんと永利さん
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とある本丸の女性審神者が連れ去られ、それを助けてからそろそろ一か月ほどが経とうとしていた。
永利自身は自分からその審神者と関わりと持とうとはせず、たまに三成の本丸を襲撃したついでに三成とその奥方の市共々顔を出す程度の浅い付き合いをしている。
それは彼女側に問題があるというわけではなく、単に永利が政府など衆人環視の客観的な視点を考慮して特別ではない女性に対しての距離感としてそうしているだけである。
それはさておき、永利が顔を出し渋い顔をされながらも差し入れだと畑で採れた野菜を手土産に顔を出した時、その人物も丁度顔を出したのである。珍しく一人で。
「うん? ……ああ、凛ちゃんとこの蜻蛉切か。どないした?」
「……永利殿?」
「おう。俺は遊びに来てるだけやし、そんな変な顔せんといてや。おーい、三成ー、お客はーん」
現れた人物に一番最初に遭遇したのは永利だった。顔を見て、ゲートを振り返って再び永利を見た蜻蛉切に軽く肩を竦めながら三成の居る部屋へ先に立って歩いていく。
困惑しながらも蜻蛉切は何か用事があるらしく大人しく付いてくる。永利はチラリと後ろへ視線を送ってから、三成の所に辿り着くと呆れ顔の三成が見上げてくる。
「阿呆だな、貴様は」
「なんやの、お客はんと進行方向同じやっただけやん?」
「永利様、蜻蛉切様、いらっしゃい」
「奥方はご機嫌麗しゅう、やな」
「ご無沙汰しております」
先導してきた永利を見上げ、深々とため息を吐いた三成に楽しげな表情のまま呑気に言葉を返す永利とお茶を用意する市。当惑しながらも市に進められて永利と共に席に座した蜻蛉切がそれぞれ挨拶を交わすと、永利は貰ったお茶をすすりつつ様子を見守っている。
チラチラと蜻蛉切に視線を向けられるが何食わぬ顔で座る永利に、何か思い切る様に固く目を閉じた蜻蛉切が深く呼吸をしてから口火を切った。
「本日は、その……主に内緒で相談に乗って頂きたいことがあり……」
何度か言葉に詰まりながらもしどろもどろに説明する蜻蛉切の相談事とは、日ごろ世話になっている主への贈り物を探したいということらしい。
「へぇ……腹くくったん?」
「……そ、れはっ! あ、あくまで日頃の感謝であって!」
「だが、買うのは貴様だけなのだろう?」
「うっ……」
「まぁ、そこらは本人が決めることやし言わんけど、後悔せんようにな」