第2章 二ヶ月目の戦い
一松さんの機嫌が悪い。
かなり悪い。
「一松さん、またゲーセンに行きませんか?」
「悪いけど俺、用事があるから」
社会性ゼロのニートが用事とな。
「一松さん、一松さん。一緒に散歩に行きませんか?」
「悪いけど十四松とパチンコ行くから」
どうせ勝てないでしょうがっ!!
「一松さん、一松さん、一松さん。猫スポットを教えて下さいよ」
「自分で探せば?」
…………。
あの子猫騒動の一件以来、一松さんが冷たい。
これが噂に聞く倦怠(けんたい)期というやつか!?
「一松さーん……」
「後にして」
紫のパーカーが去って行く。
好感情にしろ悪感情にしろ、かまわれてる状態が普通だったから、孤独が身にしみる。
私はすっかりショボンとして、六つ子の部屋の戸を開ける。
平日の昼間だというのに、今日もお兄さん方はダラダラされていた。
「ん? どうしたの、松奈。元気ないね」
とトド松さんが私に笑いかける。
「あの~ですね、お兄さん方。これは別に一松さんのことではないんですが、とにかく本当に一松さんは一切関係ないのですが!!
その~、男性の方のご意見として、恋人に何をしてもらえたら一番喜びますか!?」
「S○Xじゃない?」と長男。
「S○Xじゃないのか?」と次男。
「S○Xだと思うよ」と三男。
「S○Xだね」と四男。
「S○Xだよ!」と五男。
「S○Xだよね」と六男。
「うわああああああああっ!!」
ストレートすぎる即答に、畳をバンバン叩く。
「あのですねえ。お兄さんたちっ!! 私、一応女の子ですよ!?
もっとオブラートに包むとか何とか、ないんですか!!」
「ほとんど男所帯みたいな家に転がり込んどいて、配慮を求められても……」
とちゃぶ台に頬杖つくチョロ松さん。
「それに、どう言い方を変えても、男は最終的にS○Xだからね!」
爽やかに言い切るな、クズ長男っ!!
「てか、何で一松さんが部屋にいるんですか!!」
腹いせに、座布団でバシバシと一松さんを殴る。
「いや俺は最初からいたし。普通に入ってきたの、そっちでしょ」