第2章 二ヶ月目の戦い
瞬時に怖がる表情を作り、壁際に下がる。
その瞬間に、六つ子が障子を開け、居間に乱入してきた。
「松奈、どうしたの!?」
一松さんが真っ先に聞いてきた。私は恥ずかしそうな顔を作り、
「す、すみません。Gの奴が出て、つい……」
すぐ『なーんだ』という顔になる全員。
「もう~、そんなことで大声を出さないでよ」
「ノープロブレム。子猫ちゃんが無事で何よりだ!」
「あはは。意外と可愛いところあるんだね!」
「あー、びっくりした。引退かと思った~」
「普通に新聞紙で仕留めてそうな感じなのにね」
……失礼なことを言っている奴もいるが。
「皆さん、起こしちゃってすみませんでした。お味噌汁を温めますか?」
……恐ろしい。我ながら恐ろしい。
人間、テンパリが極限に達すると、どうしてこうも平静になれるのか。
「いや、もう少し寝てるよ。まだ朝の九時だし」
「ふぁ~あ。おやすみ、松奈」
「次はもう少し声をおさえてね」
ぞろぞろと六つ子は階段を上がっていく。
よし! 完璧っ!! 速やかに換金しに行くぞ!!
「ねえ」
「――っ!!」
心臓が止まりそうになる。
パジャマ姿の一松さんがいた。
「な、な、何か!?」
「何って、俺は起きるから。ご飯をよそってくれる?」
んだとっ!? い、いや落ち着け私!! 何も気づかれていない。
まだ何も気づかれていないからっ!!
「どうしたの? 虫が怖いなら、一緒に台所に行こうか?」
「い、いえ、大丈夫ですっ!! すぐお味噌汁を温めますね!!」
慌ててエプロンのヒモを結び直し、台所へ行く。
ん? 視界の端に動く物、発見っ!!
「目標捕捉!! ただちに排除します!!」
「は?」
私は光速で動くっ!! 神のごとき動きで新聞紙を丸め、目標を猛打!!
「――やたっ!!」
床にはケイレンするGの姿っ!! 私は額の汗をぬぐう。
生活害虫め! お母様直伝、新聞攻撃の威力を見たか!!
勝手口を開け、亡きがらを速やかに処分し、
「任務完了!!」
と横ピースで一人、決めポーズ☆
……。
振り向くと、呆気にとられた表情の一松さん。
どうしたんだろう。
「あ、もしかして新聞、お読みになりますか?」
「いや……いい」
とだけ一松さんは言って、ちゃぶ台の前に座ったのであった。