第2章 二ヶ月目の戦い
「地下アイドル商売って、ほとんどが赤字かと思っていました」
「大金を落とすファンさえ囲い込めば、何とか回るものざんすよ」
あれか。握手券目当てに同じCDを千枚買ったりする人たちのことかー。
でもいったい誰なんだろう。
こんな町で活動してる地下アイドルって、そんなに多くは――。
「あ、分かった! そのアイドルって橋本にゃーちゃんでしょう!!」
チョロ松さんがしょっちゅうCDを聞いてるので知ってる!!
「社長! 不肖松奈!! 社長のためにお手伝いいたします!!
ビラ配りにグッズのレジ、行列整理に後片付け、何でもいたしますよ!」
何とかご本人と仲良くなって、生写真を撮らせていただき、チョロ松さんに売りつけよう!! 最低でも万単位の稼ぎになるはずっ!!
「鼻息荒いざんすねえ。またろくでもないことを考えてるみたいざんすが、その橋本何とかって子じゃないざんすよ」
「ええー!」
あと、ろくでもないとは何ですか。
「で、でも手伝えることはあるでしょう? 私、もうバイト先を選んでられないんですよ」
採否待ちの時間すら惜しい。もう残り一ヶ月に迫ろうとしてるんだ。
「止めた方がいいざんす。ミーは今回はチミのために止めてるざんすよ?
ここから先は魔境。良いことなんて何一つないざんす!」
「まあまあ。グッズの準備とか設営とか、人手は一人でも多く!!」
頼み込むと、イヤミ社長も渋々、
「……じゃあ手伝ってもらうけど、後悔しても知らないざんすよ!?」
「しませんよ。失礼します!」
と扉を開ける。
…………
そのアイドルさんは、ものすごく可愛かった。
「今日はお手伝いの子がいるの? ビラも配ってくれるの? ありがとうー!」
その笑顔は、同性すらも惹きつける可愛らしさ。
だが。
「それ、舞台のコスチュームっすか?」
「そうよ! 可愛いでしょう!」
クルッと一回転してくれる。あ、ウロコが落ちた。
魚。全身で魚を主張。だがそのタコだかイカだかは、魚ではなく頭足類。しかもネタに走ってるのではなく、大まじめにやってるらしい。
「…………」
イヤミ社長を見たが光速で目をそらされた。
「じゃ、私、リハーサル行ってくるから! 新人ちゃん、よろしくねー!」
「は、はーい」
新感覚『お魚アイドル』弱井トト子さん。
……生臭い。