• テキストサイズ

【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


「あれ? 一松さん……?」

 私は横になり、一松さんがそばで膝をついていた。

 一松さん、何でここにいるんだろう。
 暗闇に目が慣れてきて、周囲を見る。
 脚立が倒れている。段ボールが横倒しになり、器材が散乱している。

「どうも、ありがとうございます……」

 あー、そうだ。脚立から落っこちちゃったんだ。
 うわあ。中のもの、全部転がっちゃってる。戻さないと。

「松奈?」
 私は器材を段ボールに入れる作業に戻ろうとした。ついでに振り返り、
「一松さん。申し訳ないんですが、この段ボールを棚の上に戻す手伝いを――」

「この……馬鹿っ!!」

 頬に痛み。一瞬遅れて、叩かれたと分かった。

 一松さんに平手で叩かれた。

 うわあ、ジョークじゃなくてリアルにDVだなー、と私は思っていた。

「何やってんだよ、こんなとこで!!」

 一松さんの声があまりにも怒っていたので、茶化すことが出来なかった。

「え、ええと、ほらこの前……顔の大きい人に会ったじゃないですか。
 知り合いなんですよ。あの人から研究所の掃除を頼まれて……」

「何でそんな危険な作業を引き受けたの!!」

「いえその、危険ってほどでもないし、報酬も出ると言うから……」

 本当は無償だが『無償なのになぜ引き受けた』と面倒な追及を受けかねない。
 それに『片付け→元の世界に早く戻れる!』と考えれば、ある意味報酬があるようなものだろう。
 
「危険だろう!! 変な奴が入ってきたらどうするんだよ!!」
「いえ鍵を変えたって言ってましたし……あれ? なら一松さんはどうやって?」
 ちゃんと裏口は閉めたはずなんだけど。

「……窓を破ってきた。もしかしてここかと思って」

 よく見ると、一松さんのパーカーに傷や汚れがちょっとついていた。
 
「そんなに他人をアッサリ信用するなよ!! 一人でこんな危険な作業をしていて、今みたいに事故って身動き取れなくなったら、どうするつもりだったんだよ!?」

「すみま……せん……」

 自分が悪いと頭では分かるけど、認めたくないような気分。
 自分なりに気をつけてたと思うし、一松さんは心配しすぎだと思うんだけど。
 
「何でこんな危険なことをしてるって、俺に言ってくれなかったの!!」

 男だったら胸ぐらつかまれてそうな勢いだ。

/ 422ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp