第2章 二ヶ月目の戦い
「あれ? 一松さん……?」
私は横になり、一松さんがそばで膝をついていた。
一松さん、何でここにいるんだろう。
暗闇に目が慣れてきて、周囲を見る。
脚立が倒れている。段ボールが横倒しになり、器材が散乱している。
「どうも、ありがとうございます……」
あー、そうだ。脚立から落っこちちゃったんだ。
うわあ。中のもの、全部転がっちゃってる。戻さないと。
「松奈?」
私は器材を段ボールに入れる作業に戻ろうとした。ついでに振り返り、
「一松さん。申し訳ないんですが、この段ボールを棚の上に戻す手伝いを――」
「この……馬鹿っ!!」
頬に痛み。一瞬遅れて、叩かれたと分かった。
一松さんに平手で叩かれた。
うわあ、ジョークじゃなくてリアルにDVだなー、と私は思っていた。
「何やってんだよ、こんなとこで!!」
一松さんの声があまりにも怒っていたので、茶化すことが出来なかった。
「え、ええと、ほらこの前……顔の大きい人に会ったじゃないですか。
知り合いなんですよ。あの人から研究所の掃除を頼まれて……」
「何でそんな危険な作業を引き受けたの!!」
「いえその、危険ってほどでもないし、報酬も出ると言うから……」
本当は無償だが『無償なのになぜ引き受けた』と面倒な追及を受けかねない。
それに『片付け→元の世界に早く戻れる!』と考えれば、ある意味報酬があるようなものだろう。
「危険だろう!! 変な奴が入ってきたらどうするんだよ!!」
「いえ鍵を変えたって言ってましたし……あれ? なら一松さんはどうやって?」
ちゃんと裏口は閉めたはずなんだけど。
「……窓を破ってきた。もしかしてここかと思って」
よく見ると、一松さんのパーカーに傷や汚れがちょっとついていた。
「そんなに他人をアッサリ信用するなよ!! 一人でこんな危険な作業をしていて、今みたいに事故って身動き取れなくなったら、どうするつもりだったんだよ!?」
「すみま……せん……」
自分が悪いと頭では分かるけど、認めたくないような気分。
自分なりに気をつけてたと思うし、一松さんは心配しすぎだと思うんだけど。
「何でこんな危険なことをしてるって、俺に言ってくれなかったの!!」
男だったら胸ぐらつかまれてそうな勢いだ。