第2章 二ヶ月目の戦い
そうこうしているうちに、二ヶ月目も残り一週間となった。
遠くでカラスが鳴いている。
「もう、どうすればいいんですか!」
夕暮れの公園のベンチで頭を抱える。
今日も午前中は家事、午後は研究所の片付けで終わってしまった。
ああ、肩と腰が痛い。
本当はもう少し早く取りかかるつもりであった。
だが今日の昼。
…………
本日の昼、家事を終えて出て行こうとすると、一松さんが来た。
ちょっとばかり照れたように、
『松奈。金が入ったから、今日はもう少し遠くに行かない?
ちょっと良い喫茶店に入るとか……』
いそいそとデートのお誘いだ。
ニートだから、いつ何をしても自由。だが私は多忙!!
とはいえデートのお誘いの断りは大変だ。まして一松さんだと後を引く。
だが腐っても私の恋人、寄生先の実子、年上の成人男性。
対応は丁重かつ敬意を忘れずに。ご本人が傷つかぬよう遠回しにお断りせねば。
『申し訳ありませんが、私は年間通してガラパゴスゾウガメのように暇な貴方と違って、多忙なんです。
どうぞ私に構うことなく、負け確定のギャンブルに行ってお金を使い果たして下さい』
不思議なことに、ものすごく怒られた。
ついつい逃げ出したが追いかけられた。
『誰かお助け下さい!! 通りすがりの無職D○が、私をめった刺しにしようと!!』
『○Tじゃねえっ!!』
毎日のように兄弟げんかをしているせいか、奴は意外に体力があるのだ。
そしてついにどぶ川の手前まで追い詰められた。
『さぁて。金が入ったから、今日はもう少し高いホテルにでも行こうか』
えええ!? 喫茶店じゃないの!? しかも昼間から!?
だが奴の目は本気だ。顔に陰が入っている。
そして追い詰められた私は、どぶ川を指さし、
『あ、一松さん! 子猫がおぼれてます!!』
『え!?』
ああ、一松さん。根が優しいことがあんな悲劇を呼ぶだなんて!
まさか子猫を助けにどぶ川に飛び込むだなんて!!
……絶対に私が何かしたんだろうって? とんでもございません。
後ろから蹴りを入れて、どぶ川へのダイブを助けたくらいですよ?
そして動揺のあまり、盛大な水しぶきを背に逃げて参りました。
そういうわけで、私はとっさの機転により無職から逃れたのであった。