第2章 二ヶ月目の戦い
自分が原因でないことに、多少落ち着いたのか、一松さんは私の横に座り直す。
ただし膝を抱えるスタイル。ダウナーな雰囲気が漂いだしている。
「俺がダメだから会わないってわけじゃない? じゃあ何でもう会えないの?」
「ですから家の事情というか何というか……」
「悪いけどさ、松奈が帰って幸せになる気がしないんだけど。
初めて会ったときだって、あんな――……ごめん」
私が不機嫌な顔になったせいか、一松さんは素直に引く。
会ったこともない私の家族をけなすなんて、失礼じゃないか。
でも『あんな』の後、何を続けようとしてたんだろう。
「じゃあさ。どういう家族なの?」
うわ。核心を突かれた。
「えっ? そ、それはその……暖かくて優しい、大好きな家族ですよ」
「……本当? なら何で目をそらすの。どうして家出してきたわけ?」
疑いの目で見ないで下さいよ。あと家出じゃないんだな、これが。
これ以上は本気で面倒くさい。仕方ない、話をそらそう。
「別れますか?」
「はあ!? い、今のはそんな悪気があったわけじゃ……!」
「今仰ったことは関係ないですよ。お別れ前提でつきあい続けるのも不誠実かと思っただけで」
「普通はつきあう前に言うよね」
至極正論。
「松奈はどうなの。ずっと冷めてるけど、俺より自分の家が大事なわけ?」
うーん。記憶がない時点で、天秤にかけるのが不可能なんですよ。
「逆に聞き返しますが、一松さんこそ、家より恋人が大事だと、ご兄弟やご家族と別れて私についてこられます?」
「無理」
一瞬のためらいすらなく即答か!!
まあ予測は出来ていたけど。
ただでさえ生活力がゼロな上、兄弟への依存度も半端ないんだし。
彼の世界を壊してまで、ついてきて、なんて言う権利は私にはない。
「一松さんがご家族を大事に思うのと同じ気持ちが、私にもあるんです。
だからどうしても帰らないと」
「べ、別にあいつらのことなんて俺は……っ!」
一松さんはこぶしを握り、肩をふるわせる。
その顔に彼らしくない激情が交錯し、
「……分かった」
力なくこぶしを下ろした。かつてなく意気消沈した様子で立ち上がり、
「もう帰ろう」
とだけ言った。
…………
で。普通に家に帰って終わる話だったのだけど。
「だよ~ん!」
「げっ!!」