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【松】六人の兄さんと過ごした三ヶ月

第2章 二ヶ月目の戦い


 自分が原因でないことに、多少落ち着いたのか、一松さんは私の横に座り直す。
 ただし膝を抱えるスタイル。ダウナーな雰囲気が漂いだしている。
「俺がダメだから会わないってわけじゃない? じゃあ何でもう会えないの?」
「ですから家の事情というか何というか……」

「悪いけどさ、松奈が帰って幸せになる気がしないんだけど。
 初めて会ったときだって、あんな――……ごめん」

 私が不機嫌な顔になったせいか、一松さんは素直に引く。
 会ったこともない私の家族をけなすなんて、失礼じゃないか。
 でも『あんな』の後、何を続けようとしてたんだろう。
「じゃあさ。どういう家族なの?」
 うわ。核心を突かれた。
「えっ? そ、それはその……暖かくて優しい、大好きな家族ですよ」
「……本当? なら何で目をそらすの。どうして家出してきたわけ?」
 疑いの目で見ないで下さいよ。あと家出じゃないんだな、これが。
 これ以上は本気で面倒くさい。仕方ない、話をそらそう。
「別れますか?」
「はあ!? い、今のはそんな悪気があったわけじゃ……!」
「今仰ったことは関係ないですよ。お別れ前提でつきあい続けるのも不誠実かと思っただけで」
「普通はつきあう前に言うよね」

 至極正論。

「松奈はどうなの。ずっと冷めてるけど、俺より自分の家が大事なわけ?」

 うーん。記憶がない時点で、天秤にかけるのが不可能なんですよ。

「逆に聞き返しますが、一松さんこそ、家より恋人が大事だと、ご兄弟やご家族と別れて私についてこられます?」

「無理」

 一瞬のためらいすらなく即答か!!

 まあ予測は出来ていたけど。
 ただでさえ生活力がゼロな上、兄弟への依存度も半端ないんだし。
 彼の世界を壊してまで、ついてきて、なんて言う権利は私にはない。

「一松さんがご家族を大事に思うのと同じ気持ちが、私にもあるんです。
 だからどうしても帰らないと」
「べ、別にあいつらのことなんて俺は……っ!」
 一松さんはこぶしを握り、肩をふるわせる。
 その顔に彼らしくない激情が交錯し、

「……分かった」

 力なくこぶしを下ろした。かつてなく意気消沈した様子で立ち上がり、

「もう帰ろう」

 とだけ言った。

 …………

 で。普通に家に帰って終わる話だったのだけど。

「だよ~ん!」

「げっ!!」

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