第7章 使いふるされた台詞
「アスマ!」
病院についてから一時間もしないうちに、病室に紅がやって来た。
その顔は青白く、俺を見た瞬間に安堵の色が浮かんだ。
「待機所でアスマが病室に運び込まれたって聞いて…。」
いつもは強気な紅が、弱々しくそう言う。
「ばか。
大事な女と子供おいて行くわけねえだろ?」
俺は紅を安心させるように笑うと、膨らみ始めている彼女の腹を見た。
ふと、数時間前を思い出す。
狭くなる視界の中、教え子達の悲痛な表情のあとに浮かんだのは、愛しそうに自分の腹を撫でている恋人だった。
暁との戦闘に駆けつけたルミに助けられた俺は、ルミが極秘任務についていると言うことともう1つ、彼女は未来が見えると言うことを知った。
タイミングよく現れたルミ。
彼女が来なければ、恐らく俺はあのまま死んでいた。
(本当だったら、俺は今ここにいなかったのかも知れねえな。)
本当だったらルミが来ることはなく、あの場で俺は死んでいたのかもしれない。
そんな未来が見えたアイツが助けに来てくれた。
俺にはそうとしか思えなかった。
俺は紅を抱きしめながら、生きている幸せを感じていた。