第23章 〇【ナイル】Family complex
表情を変えぬままナイルは公爵に案内されて部屋に通された。サラをベッドに寝かせてやると、公爵が部屋の入口から声を掛けた。
「素晴らしいショーであった。兵団運用資金も是非、増金させて貰うぞ。シャワーがあるから使い給え。支度が出来たらまた持ち場に戻ってくれていい。最高だったよ、ナイル」
背後の声に反応せず、サラを見たまま罪悪感に襲われていた。
「……サラ、本当にすまない……」
体をある程度拭いてやり、目が覚めるまでは一緒に居てやることにした。
ベッドの横にあるソファに座り、サラを見守る。
夜会はいつも朝まで続く。
朝までに戻れば支障はないはずだ。
ナイルは倦怠感に襲われていつの間にかソファで寝てしまった。
目が覚めると、ベッドにサラが居らず周囲を見渡した。窓際にサラを見つけ、立ち上がって近寄る。
「……師団長、申し訳ございませんでした」
「……いや、悪いのは俺だ。結果、お前を傷付けてしまった。もっと彼について調べて疑うべきだった。こちらこそ申し訳ない」
ナイルが言うと、サラが振り返った。
「……師団長、お願いがあります……いえ、我儘です。もうこれで我儘は絶対に言いません」
「何だ」
「ご自分を責めないでください。貴方は本当に素晴らしいお方です。今夜は師団長の御家族や仲間への愛を、強く感じる日になりました。やっぱり私はこの兵団に所属し、貴方の部下で……本当に良かった。貴方はそのままでいてください。部下からの我儘です……我儘、聞いてくださいますか?」
泣き腫らした瞳は、月明かりで薄らと見える。
「……ああ、勿論だ。約束する」
「はは、良かったです、ありがとうございます」
二人は兵服を身に付け、部屋を後にした。
それからはまた普段通りの二人が戻り、普段通りの生活を過ごした。
だが二人はもう一度だけ、過ちがあったとか。しかしそれが真実かどうかは定かではない。
- Fin -