第23章 〇【ナイル】Family complex
ウォール・シーナの某所。
ここでは今夜、夜会が開催される。その警備にと憲兵団が駆り出されたのだが。
「私を……ショーに?」
「は、はい……なんでも、ナイル師団長ともう一人、異性の部下を連れて来るように、と」
いかにも怪しい命令。命じてきたのはこの区一番の兵団出資者で、何故かナイルを贔屓目に見ている貴族だ。この貴族が開催する“催し物”、主催者の公爵が招待した貴族のみ入場することを許された会場、そのショーに、今回ナイルが指名されたのだ。
「……何故私が?」
理由はどうあれ、だ。
異性の部下というのが引っ掛かるが命に背く訳にもいかないため、とある部下の元に向かった。会場入口付近を警備にあたるサラだ。
「サラ」
「は!ドーク師団長」
「一緒に来い」
「は!」
あとを追ってくるサラとはもうすぐで十年の仲になる。十代だったサラも二十代半ばを過ぎた。立派な兵士の役目を務め、今ではサラも、その他兵団上層にも知られるナイルの腹心の部下になった。
もちろん、サラはナイルに尊敬の念と、業務的に長く添い続けた時間で深い信頼を置いている。
「……あ、師団長、班員に伝達があるので少々お時間頂いても?」
「ああ、急げ」
「はい」
しばらくしてサラが班員に伝達を終えて戻ってくる。合流して会場入口へ。入口にいた婦人にくすりと笑われたのを気にせずに中に入っていくと、まだ先にも扉があった。
扉一枚抜けただけで、甘い香りと匂い消しの為の強い香水の香り。頭が痛くなりそうだ。ナイルの後ろで匂いにやられたサラがくしゃみを小さくした。
「公爵、お待たせ致しました」
「おお!ナイル!待ち侘びたぞ!さあさあ、お嬢さん兵士もこっちへ!」
公爵はナイルと、そしてサラの腰に手を回した。それに気付いて咄嗟に公爵に向き直り、「本日は公爵からお誘いを受け、大変光栄と存じます」と公爵に握手を求めた。公爵は嬉しそうに笑って返事を返しながら両手で握手して二人より一歩先に前へ出る。