第6章 ある夏の一日
「っ・・・そ、すけさん・・・」
「どうした?」
「ほんとはね・・・ひっ・・・すごく・・・すごく、怖かった・・・怖かったよぉぉ・・・ぅ・・・ふぇ・・・」
「もう大丈夫だ。大丈夫だから・・・な?」
多分ずっと気持ちも張り詰めていたんだろうと思う。一気に涙が溢れて止まらない。そんな私の頭を宗介さんが優しく何度も何度も撫でてくれる。大好きな宗介さんのあたたかさとか、香りとか、手の感触とか伝わってくる鼓動とか、その全部が涙を更に溢れさせる。私が泣きじゃくると、宗介さんも更に力を入れて、でも私が苦しくならない力加減で、ぎゅーっと抱きしめてくれた。
「・・・あん時、無理言ってでも抜けてくればよかった」
「へ?」
少し時間が経って、私が落ち着いてきた時、宗介さんがぽつりと言った。宗介さんの腕の中で小さく顔を上げる。
「そしたら・・・ヒカリにこんな思いさせないで済んだのに」
凛さんが帰り道に言っていた。時間がきてあがろうとしたら急に追加オーダーが大量に入ったって。それで店長に少しだけでいい残ってくれないかと懇願されて、抜けるに抜けられなかったって。
宗介さんはそのことを言っているんだ。
「で、でも・・・それは仕方ないですよ」
「ヒカリのこと傷付けたあの男達もムカついた・・・でも、それ以上に自分が許せなかった」
私を抱きしめる腕に少し力がこもる。宗介さんは私の言葉が聞こえてないかのように続ける。
「なんで・・・お前のこと守ってやれなかったんだって、悔しくて・・・悔しくておかしくなっちまいそうだった・・・」
・・・帰り道、ずっと宗介さんが黙っていた理由。あの男の人達や無茶をした私に怒ったりする気持ちも当然あったと思う。でもそれ以上に、宗介さんは自分に腹が立っていたんだ。許せなかったんだ。
「・・・ごめんな、ヒカリ」
身体を離すと、はっきりと私の目を見て宗介さんが言った。揺れ動く宗介さんの瞳に見つめられると、胸がぎゅーっと締め付けられたみたいになった。
「ううん、いいの・・・今こうして、宗介さんがぎゅってしてくれてるから・・・」
怖い思いも確かにした。だけど、それも宗介さんに包み込まれればどこかへ行ってしまう。