第6章 ある夏の一日
「・・・ありがとな」
「へ?」
私も何を話したらいいのかわからなくて、必死になって言葉を探している時だった。ぽつりと宗介さんが言った。
「江は俺にとっても妹みたいなもんだから・・・守ろうって頑張ってくれてありがとな」
俯いていた顔を上げて、私の目を見つめると、宗介さんははっきりと言ってくれた。
「い、いえ!江先輩は私にとっても大切な先輩だし・・・」
それは私の紛れもない本心だった。大切な先輩をどうにかして守りたいって、そう心から思ったんだった。
「そ、それに江先輩は凛さんの大切な妹だし、宗介さんの大切な幼なじみだから・・・だから絶対にあの男の人達から守らなきゃって・・・それで、私・・・・・・ひゃっ」
そう、これも確かにあの時思ったこと。江先輩に何かあったら凛さんも、それに宗介さんだって悲しむって思った。そんな思いを隠すことなく話していると、急に宗介さんの手が伸びてきて、私の腕を掴んだ。
「・・・お前も・・・俺にとって、大事な・・・・・・彼女、なんだからな」
「そ・・・すけ・・・さ・・・」
「凛にとっても、それに江だって・・・お前の親父さんとお袋さんだって・・・」
「・・・・・・」
「お前のこと、本当に・・・すげえ、大切に思ってるんだからな・・・」
「・・・・・・」
「だから・・・頼むからもう無茶なことすんな」
私の腕を掴む力強い手と、少し震える声、そしてまっすぐなエメラルドグリーンの瞳から、宗介さんの想いが痛いぐらいに全部伝わってきた。
「っ・・・は、い・・・ご、めんなさい・・・っ、ふ・・・・・・」
・・・本当に私、馬鹿だ。誰かを大切にしたいのなら、おんなじぐらい自分のことも大切にしなきゃいけないのに。そうしなきゃ、大切な人を悲しませるだけなのに。
一気に涙が溢れてきて前が見えなくなって。そんな私を宗介さんが少し身体を起こして、ぎゅーっと強く抱きしめてくれた。優しく、でも力強く、私の存在を確かめるみたいに。
「・・・無事でよかった。怪我だけですんで、ほんと、よかった・・・・・・」
「っく・・・ひっく・・・」
私も腕を伸ばして宗介さんに抱きつく。宗介さんの言葉はまだ震えていて、まるで宗介さんも泣いているかのようだった。