第6章 ある夏の一日
「・・・・・・」
「・・・・・・」
電車が動き出しても、宗介さんはさっきまでと同じで黙ったままだった。向かいの窓の外をじっと何か考え込むような表情で見つめている宗介さん。
「お前んち、湿布と包帯あるか?」
「へ?・・・あ、はい。確か救急箱の中にあったと思います」
「そうか。もう病院開いてねえから、とりあえず俺が応急処置してやる」
「え?あ、はい・・・」
静かだけど有無を言わせない口調に私はただ頷くことしかできなかった。電車の中ではそれきり、もう会話をすることはなかった。
「・・・よし。とりあえずこれでいいだろ」
「はい、ありがとうございます」
あの後、再び宗介さんにおんぶしてもらって電車を降りて、私は自分の家まで帰ってきていた。宗介さんはまず私の部屋のベッドに私を下ろすと、救急箱を探しに行ってくれた。普段使わないから少し不安だったけれど、私が記憶していた場所に救急箱はちゃんとあって、宗介さんはそれを手にすぐまた戻ってきてくれた。そして、私の足首の状態を改めて確認すると、慣れた手つきで湿布を張り包帯で固定してくれた。
「捻挫だと思うけど明日ちゃんと病院行けよ・・・いや、いい。明日はバイトねえし、愛達の練習見てやるのも午後からだから、俺がついてく」
「へ?!だ、大丈夫ですよ、そんな・・・」
宗介さんの手当のおかげかだいぶ痛みはなくなったし、それに一晩寝ればもっと回復するはず。だけど、宗介さんは更に続ける。
「ダメだ。お前の親明日も仕事だろ。俺がつれてってやるからちゃんと診てもらえ」
「・・・・・・わかりました。じゃ、じゃあ、お願いします」
「ああ」
宗介さんにまた迷惑かけちゃうとか、病院に行くほどでもないんじゃ、とか色んな思いが私の中を駆け巡ったけれど・・・
『無理して取り返しがつかなくなったらどうすんだ』
さっきの宗介さんの言葉が蘇ってきて、私は静かに頷いた。それは宗介さんの言葉だからこそ、響いてくるものだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
再び部屋の中が静まり返る。宗介さんはベッドに腰掛けている私の前にあぐらをかいて座ったまま、ずっと俯いて何もしゃべらない。