第6章 ある夏の一日
「宗介、大丈夫か?俺、おぶるの代わろうか?」
「いや、大丈夫だ」
あの後、凛さんと江先輩に手助けしてもらいながら宗介さんにおぶさった私は、今その大きな背中に揺られ駅に向かっていた。ファミレスから駅まではかなりの距離だったし、バイトで疲れてるはずなのに、それでも宗介さんは息ひとつ乱さないで私をおぶって歩いてくれた。
歩きながら江先輩がさっきの出来事を話してくれて、凛さんと、そして江先輩も何度もお礼を言ってくれた。結局、何もできなくて怪我までしてしまったのに、なんだか申し訳なかった。
「・・・」
「・・・」
こっそりとすぐ隣の宗介さんの顔を覗いてみる。宗介さんは、凛さんや江先輩に話し掛けられれば短く返事をするものの、基本的にずっと黙ったままだった。
「そんじゃな。ヒカリ、お大事にな」
「ホントにありがとね、ヒカリちゃん。明日は部活休んでいいから、おうちでゆっくり治してね」
「え?!・・・あ、は、はい・・・」
やっと駅に着いて。ここからは凛さん達とは別々の電車になる。江先輩の言葉に部活のことを思い出してハッとなったけれど、この足だとかえってみんなに迷惑になってしまう。素直に明日は休ませてもらうことにした。
「宗介!ヒカリのこと、ちゃんと送り届けろよ」
「ああ、わかってる」
「それじゃあね、ヒカリちゃん、宗介くん」
「は、はい!失礼します」
手を振ると凛さんと江先輩は行ってしまい、私も宗介さんに背負われたまま、家に向かう電車に乗り込んだ。
夕暮れ時の電車は少し混んでいて、何人かがチラチラと私達の方を見てくる。
「そ、宗介さん・・・座ってれば大丈夫だから、降ろして下さい。その・・・宗介さんも疲れちゃうだろうし・・・」
恥ずかしいのもあったけど、それ以上にさすがの宗介さんも疲れちゃうんじゃないかと思ってそうお願いする。
「俺は別に平気だけど、座りてえんなら・・・ほら」
「っと・・・あ、ありがとうございます・・・」
「おう」
空いている座席の前で宗介さんがしゃがんでくれて、痛い方の足首に力を入れないように気を付けて座る。そして、その隣に宗介さんが座ってくれる。相変わらず宗介さんの息は全く乱れてなくて、こんな時なのにその逞しさにドキドキしてしまう私がいた。