第6章 ある夏の一日
「・・・こっちは大事な妹と後輩にちょっかい出されてムカついてんだよ。とっとと失せろ」
最後に凛さんが鋭く睨みつけ低い声で言い放つと、完全にそれで二人組の心は折れてしまったみたいだった。
「っ・・・!お、覚えてやがれ!」
「こ、こんな店もう来てやんねえからな!!」
「おーおー、二度とくんな!」
こういう時にお決まりの捨て台詞を吐きながら、二人組が車に向かって逃げていこうとした時だった。
「・・・どっちだ」
途中からなぜかじっと押し黙っていた宗介さんが、男の人達の腕を同時に掴んだ。
「「い、いでっ!!」」
「・・・なあ、お前らのどっちがヒカリのことあんな風にした?」
「い、いてぇ!や、やめてくれぇ!」
「は、離してくれ!折れちまう!!」
遠目でも、男の人達の腕を掴む宗介さんの手に段々と力が加わっていくのがわかった。
「お、おい!やめろ、宗介!」
「だ、ダメだって、宗介くん!」
「・・・早く言え。言わねんならこの腕、両方ともへし折るぞ」
「た、助けてくれ!ほ、ほんと折れちまう!・・・っっっうう!」
「た、頼むからや、やめてくれ!・・・うあああ!!」
凛さんと江先輩が止めに入っているけれど、宗介さんの耳には全く届いていないみたいだった。男の人達が苦しそうに顔を歪める。
・・・こんなに怖い宗介さん、見たことない。どうしたらいいのかわからない。でも・・・
「宗介さんっ!!!」
お腹の底から出せるだけの声を張り上げると、宗介さんがピクッと反応した。
「や、やめて!私は大丈夫だから、そんなことしないで!!」
「ヒカリ・・・」
宗介さんが私のことで怒ってくれてるのは痛いぐらいに伝わってきた。でもそれで、私のことなんかで、宗介さんに人を傷付けて欲しくない。
「・・・っ!っててて・・・」
「お、おい、早くしろ・・・」
いつの間にか宗介さんの腕の力は抜けていたみたいで。慌てて腕を引き抜くと、その腕をさすりながら二人はものすごい速さで車に乗り込んでしまった。そして急発進。みるみるうちに、車は走り去ってしまった。
「・・・くっそ」
苦々しげな表情で車が去って行った方を見つめる宗介さん。