第6章 ある夏の一日
「や、やめて!江先輩、江先輩!・・・っ!!い、いったぁ・・・」
立ち上がろうとするけれど、足首に鋭い痛みが走って、再び倒れ込んでしまう。どうしよう、どうしよう・・・!江先輩も必死に抵抗してるけれど、男の人二人の力に敵うわけがない。車にどんどん近付いていく。乗せられちゃったら本当におしまいだ。
「助けて!誰か・・・助けて・・・!!」
ただもう声を上げることしかできなくて、声を限りに叫び続けていたその時だった。
「お前ら、人の妹に何してくれてんだ?」
「江から手離せ」
「お、お兄ちゃん!宗介くん!」
そこにはいつの間にか凛さんと宗介さんがいた。それぞれが二人組の腕をグッと掴むと、江先輩から引き剥がす。
「いっててて!」
「な、何しやがんだ、お前ら!」
・・・なんて凄んでみせてるけれど、明らかに自分達より身長も高く体格もいい凛さんと宗介さんに怯んでいるのは明白だった。
「つーかお前!ここの店員だろ!俺覚えてるぞ!店員が客に手あげていいのかよ?!」
二人組のうち一人が、びしっと凛さんを指差しながら声を荒げる。だけど凛さんは少しも動揺しないで続ける。
「生憎、制服脱いで店出たらもう店員じゃないんでな」
「あぁ?!何だと!」
「つーか、そろそろ引き下がった方が身のためだと思うぜ。なあ、宗介」
「ん?・・・ああ、そうだな。もうじきつくんじゃねえか?」
凛さんが宗介さんに小さく目配せをすると、宗介さんはすぐに凛さんの意を理解したみたいだった。二人組だけじゃなくて、江先輩も私も、わけがわからなくて、凛さんと宗介さんのやり取りをぽかんと見つめるだけだった。
「店の外でなんか揉めてるってな、さっき教えてくれたお客さんがいるんだ」
「ああ、店出る前に電話したからそろそろ来るだろうな」
「・・・警察」
そう言うと、凛さんは今度は少し悪い笑顔でニカッと笑う。
「「なっ!!」」
ここまできて凛さんと宗介さんの様子から、警察を呼んだのは嘘だってことが私にもわかった。だけど、二人組は『警察』という単語にさっきまでよりも激しく動揺しだした。