第6章 ある夏の一日
・・・存在すら気付いてもらえてなかった上に、また小学生に間違われた!でもここで引き下がれない!
「ほ、本当に迷惑なので!あと私はこの人の後輩で、高校生です!!」
「ねっ!細かいことはいいからとにかく行こうよ」
「ほら、そこに車あるからさ」
「きゃっ!ちょ、ちょっと!!」
・・・私の存在なんてもうなかったみたいに男の人達はまたしても江先輩につきまとい始める。片方の男の人がぐいっと江先輩の腕を掴んで、車の方へ引っ張っていこうとする。
「や、やめてください!!!・・・おっきい声で人、呼びますよ!!!」
「って・・・このガキ、何すんだよ・・・!」
必死の思いで男の人の手を振り払うと、不意を突かれたからかその手は江先輩の腕から外れた。かばうように江先輩と男の人達の間に身体を滑りこませる。
「ヒカリちゃん!」
「だ、大丈夫です!江先輩は私が守りますので!」
・・・怖い。脚ががくがく震えているのがわかる。でも江先輩は、私にとってとっても大切な先輩だ。入部した時からずっと優しく話しかけてくれて、たくさん水泳のこと教えてくれて。宗介さんとのことだって相談にのってくれた。大好きな大好きな先輩。こんな人達に連れてかせるわけにはいかない。
「なんだ?!このガキ!」
「どけよ、お前に用はねえんだよ!」
さっきまでの宥めすかすような声と違って、二人組の声が荒々しくなる。怖い。逃げ出してしまいたい。でも・・・
「た、助けて!誰か!助けて下さい!!!」
すうっと大きく息を吸い込むと、私はお腹の底からありったけの声を出して叫んだ。お店の裏手だからか周りに人通りはないけれど、きっとお店の人か、近くの家の人が気付いてくれるはず。
「っ!てめ・・・!!ふざけんなよ!!」
「っきゃあ!!!い、いったぁ・・・」
「ヒカリちゃん!大丈夫?!」
『痛い』と思った瞬間には、私は男の人に突き飛ばされて、地面に倒れ込んでいた。
「さっ!邪魔者はいなくなったから行こう!・・・ほら、来いよ!」
「きゃ!や、やめて!」
「お前もごちゃごちゃうるせえなあ。おら行くぞ!」
さすがに業を煮やしたのか二人組は言葉遣いも荒くなり、江先輩を車にひきずっていこうとする。