第6章 ある夏の一日
「・・・あー、江もよく来たな」
「うん。宗介くん、お疲れー」
そして、宗介さんは視線を私から江先輩に移すと、そのまま凛さんも交えて会話を始めてしまった。バッグに伸ばしかけていた手を膝の上に戻して、ぎゅっと強く握りしめる。
・・・こんな風にしたかったわけじゃない。私だって宗介さんにお疲れ様ですって言って、もっと普通に話したかったのに。いつまで経っても私、なんでこんなに子供なんだろう・・・
「・・・っん!」
「・・・ヒカリ。適当に・・・2時間ぐらいここで時間潰しとけ」
泣きそうになってしまうのを必死に堪えていた時、私の頭にぽんっと宗介さんの手が置かれた。
「・・・客減ってきたし、それぐらいいてもいいよな?凛」
「おう、大丈夫だと思うぜ」
「今日はそれであがりだから・・・その・・・一緒に帰るだろ?」
大好きな大きな手は私の頭に置かれたまま。そこから宗介さんの気持ちが伝わってくる。
・・・そうだ。どんなにたくさん食べても、どんなに子供っぽくっても、それでも宗介さんは私がいいって言ってくれるんだった。
「・・・う、うんっ!い、一緒に帰る!絶対絶対、宗介さんと一緒に帰る!!」
「わかったから。んな何回も言わなくてもいい・・・・・・はっ!」
私の顔を見て、宗介さんが笑ってくれる。大好きな笑顔。大好き、大好き、本当にだいす・・・
「あー、お前ら二人の世界に入ってるとこ悪いんだけどな。俺もおんなじ時間にあがりだからな」
「私もいまーす」
凛さんと江先輩の声が聞こえて、私と宗介さんはハッと我に返る。
「わ、わかってる!」
「わ、わかってます!」
この言葉もまったくの同時に出てしまって。凛さんと江先輩はそんな私達を見て笑い出す。かぁーっとまた一気に顔が熱くなって、宗介さんの方を見上げると、宗介さんの頬も少し赤くなっていた。さっきまでの悲しい気持ちなんてもうどこかへ行ってしまっていて。宗介さんとおんなじなのが嬉しくって、いつの間にか私も声を上げて笑ってしまっていた。