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【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】

第1章 神の初期刀・前編(加州清光、大和守安定編)




「私はこうしてすぐに治ってしまうのだし、心配しなくても良い」

「……その言い草。悪いと思ってないじゃん」

「はは、そんなことは、ごぼぼっ、」


 その先の言葉は続かず、あぶくのような濁った音の奥に崩れていった。清光の汚れた頬に新たに血の斑点が散ったのは、目の前の緋雨が切り裂かれた肺にこみ上げる血を吐いたからだ。


 清光を汚すことのないよう一応顔を逸らしてはくれたのだが、間に合わなかった。一瞬肩を盛り上げ、前屈みになり、口唇から密度の高い真っ赤な液体を溢れ出させる――その光景は否応なく、かつての主の記憶、その体に忍び寄る、死の魔手の記憶に、重なって。


「……ああ、」


 その瞬間、緋雨の顔が悲愴に歪んだ。顎を血で濡らしたまま音もなく歩み寄り、表情を失っている清光を抱きしめる。


「すまない。思い出させてしまったか」


 違う。主のせいじゃない。悲痛さを湛える美しい顔に、その優しさと聡さに、どうにか報いたくてそんな言葉がこみ上げる。しかし、それを声に乗せようと必死になる清光の表情を見て悟ったのか、緋雨は安心させるかのようにふっと口元を緩めた。


「こんなことにも気を遣えないようでは、沖田殿に面目が立たないな」


 そう微笑んで言われた途端、底の見えない穴をのぞき込んだような得体の知れない感情が溢れ出た。心の底から申し訳ないとばかりに歪む顔は、整っているだけ余計に表情が胸に刺さる。言わなければならないと躍起になっていた言葉は、全部喉の奥に詰まって見る間にほどけていってしまった。せっかく気持ちを言語にして伝える口があるのに、こういう時ばかりうまく動いてくれないのだから全く人間の体というものはままならない。


「さあ、もう帰ろう。また爪を塗り直してあげなくてはね」

「……うん」


 出てこなかった言葉が灼けるように渦巻く胸を押さえながら、清光は頷いた。とはいえ、女性と見紛う彼の手が自分の煤けた指を優しく擦れば、やっぱりその熱も簡単にかき消えてしまうのだが。


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