【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】
第3章 審神者になった白い鬼
――ここ数百年で人間は随分と変わった。感情を排し、冷たさを帯び、外界からの刺激にいっとう鈍くなっていった。環境汚染やら都市機械化に伴う犯罪の増加やら、相も変わらず自分で自分の首を絞めるようなことを繰り返し、そしてやはり戦争はおさまらない。
命短い故に忘れていく生き物、それだけが普遍の真理として人の世を動かしているように彼には思え、またそうしたどうしようもない愚かさをたまらなくいとおしいと思った。
「こちらにお伺いいたしましたのは他でもない、貴方様にたってのお願いがあってのことです」
「なるほど」
彼はさして訝る様子もなくゆっくりと頷いた。ここ二百年、何度かこのような「お願い」をしに人間がやってくることがあったからだ。その大抵は「戦争に荷担しろ」といった趣旨のもので、人間と接するのは嫌いではないが、戦という行為には死んでも関わりたくない彼はそれを尽く退けてきた。強いられるようなら少々手荒な真似をしてでも山から追い出し、術を施して入ってこられないようにもした。
こうして戦争への荷担を拒絶する神族は珍しくないらしいが、人間と神の混血である者の中には戦争の道具となるのを潔しとする者もいるらしい。或いは人間に刃向かうだけの神力がなく、強制的に戦場に駆り出される者も。
そんな同胞の悲劇を思うと心優しい彼は胸を引き裂かれるような感覚を覚えるのだが、行動に移そうとは思わなかった。自分が人の世に踏み込めば踏み込むほど、それが人であれ神であれ、いたずらに命を散らしてしまうのが分かりきっているからだ。
鬼神は自分をとてつもなく大きい巨人のようだと思っている。ほんの少し身じろぎをすれば命あるものを何百と踏みつぶし、自らの意志とは無関係に殺生を犯してしまう。人を愛する故にそれができない彼は、そうならないためにこうして俗世を離れ、出来る限り人と距離をとって暮らしているのだ。
この、布で顔を覆う面妖な人間達もまた同じようなことを自分に願うのだろうか。諦めのような寂しさのような感情が胸に染みていくのを感じながら、鬼神は次を促す。
「それで、その願いとは何なのだろう」
「はい。歴史修正主義者の犯行を阻止することです」