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【刀剣乱舞】不死身審神者が死ぬまでの話【最強男主】

第1章 神の初期刀・前編(加州清光、大和守安定編)




 しかし緋雨はいつまでも清光にそんな不憫な謝罪を続けさせはしなかった。ゆっくりとその這い蹲る背中を両手で抱くようにして触れる。その感触に清光は引き寄せられるようにして顔を上げた。いつも入念に手入れを施している顔は涙と鼻水とでべしょべしょに汚れ、額は畳で強く擦りすぎたせいか赤くなっている。ただ一つ、南天の果実のような鮮紅の瞳孔だけが、いつもそうするように緋雨の許しの一言を切に乞うて震えていた。


 捨て犬のような痛々しい表情を浮かべて見つめてくる臣下に、緋雨は穏やかな微笑みを返した。安心させるようにしっかりとかき抱き、自らの懐へ引き寄せる。


「清光、よく聞いて。私はお前を嫌うことも、捨てることもしないよ。何があっても」


 着物の袖巾で清光の華奢な身体をすっぽりと押し包み、ぽん、ぽんと等間隔で背中をたたく。単純明快で誤解など生まれようのないほど真っ直ぐな言葉は、黒い澱で爛れた清光の胸の内にじわりと染み広がっていった。


「気づかぬ間にお前をこんなに不安にさせてしまっていたとはな。すまなかった、清光。私は審神者失格だ」


 緋雨の手が、爪の先まで周到に美しい手が、清光の頭を慈しむように撫ぜる。降ってくる声には苦痛の色がにじんで、その言葉がどれほど疑いようのない真実であるかを物語っている。


「私が昔のことを話さないのは、自分の心からお前たちを遠ざけたいからじゃない。下手に関わらせればお前たちの心を傷つけてしまうかも知れないからだ。お前は賢い子だからおおよそ見当は付いているだろうが……私は普通とは言い難い生を歩んできたからね」


 嗚呼、応えてくれている。主が、俺に。安定に独り善がりだと糾弾された、この身勝手としか言いようのない我が侭に。その事実がとにかく嬉しくて仕方がなくて、彼の声が耳に届くたび、心に巣くう厚い雲が見る間に取り払われていくようだ。


「けれどそれはすべて、過去の私の責任だろう? そのせいでお前たちが不遇な目に遭うのはどうにも耐えられないんだ」


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