第2章 冥冥之志【メイメイーノーココロザシ】
「私の…所為だっ……
私のっっ……」
今、俺の目の前では十参號が狂った様に泣き叫んでいる。
十参號の二つ上の兄弟子である拾號が敵に囚われて仕舞ったからだ。
数年前、武田は織田に壊滅させられた。
それでも何とか生き延びた信玄様は長年の好敵手で在り、盟友でも在る上杉謙信を頼って春日山城へ身を寄せて居た。
そして武田の再興を誓い着々と準備を整えていたのだが、当然織田以外にもそんな武田の動きを煩わしく思う国も多い。
そういった各国の焦臭い動向を探るのは俺達三ツ者の仕事で、武田の再興を阻もうとする輩相手ではかなり危険な状況に陥る事も多かったんだ。
昨夜もそんな輩達を査閲していた。
その時に、最近は自分の不甲斐無さを痛感していた十参號が勇み足で敵に近付き過ぎて仕舞った。
結果、三ツ者の存在を気取られて一気に強襲を受けた俺達は散り散りに逃げたのだが、事前に打ち合わせていた聚合所に拾號一人だけが戻って来なかった。
そう、三ツ者は戦う術を持っていない。
勿論普段の厳しい鍛錬の成果で身体能力はかなり高い。
だけどそれは諜報活動に特化した物であって、正面から敵と打つかる為じゃないんだ。
今朝になって、やはり拾號は彼奴らに拿捕されたという報告が入った。
今は柒號と玖號がその動向を監視している。
拾號を救う為じゃない。
見ているだけだ。
拾號が信玄様や三ツ者へ敵の手が伸びる様な内容を喋っちまわないか、不用意な行動で此方の動向に気付かれたりしないか……
只、見ているだけなんだ。