第8章 光風霽月【コウフウセイゲツ】
「ああ……」
満開に咲き誇った見事な桜を見上げて小さく感嘆の息を吐く。
今、俺が居るのは安土城城門前に作られた広大な庭園だ。
この庭園には安土城下の民だけでなく、他の国から訪れた者も、兎に角どんな人間でも貴賤無く訪れる事が出来る。
季節に依って楽しめる様に木々や花々が配置され、その造り上げられた美しい景観は民達や旅人の憩いの場になっている様だ。
そして今は、池泉の滸に規則正しく並べ植えられた桜が、まるで見上げる者に自慢する如く花弁をこれでもかと開いていた。
良く良く考えてみれば、此れって凄え事だよな。
安土城の真下に誰でも招き入れるなんてさ。
本当に天下泰平の世の中になったんだって実感するよ。
豊臣秀吉が天下統一を成し遂げた。
独眼竜は奥州へ、そして徳川家康は三河へ戻り、東も西も確りと統率している。
現在の礎を作り上げたのは間違いなく織田信長だ。
だけど信長は後一歩……という所まで来て、突然本能寺で消えちまった。
その話を聞いた時、俺は身震いしたよ。
じゃあ信長の後釜に信玄様が名乗りを上げれば良いんじゃねえか…って。
信玄様なら天下人としても充分な天賦の才を持っている。
当然そう考えるのは武田だけじゃねえだろう。
また各国が我先にと天下人を狙って、再び血で血を洗う乱世に突入か………
そう思った矢先、信長を襲った謀反人として明智光秀が処刑された。