第7章 明智光秀【アケチーミツヒデ】
仕舞った…と思う間も無く『』の視線が俺を捉える。
思い出して仕舞うか?
俺を……陵辱の限りを尽くされた記憶を……
だが『』はその大きな瞳に俺に対する怯えを滲ませて、光秀の腕の中へ逃げ込んだ。
確かに悔しかったし、悲しかったよ。
そんな女々しい想いを誤魔化す心算はねえ。
でもそう感じたのは一瞬だった。
綺麗事を抜かすのも得意じゃねえけど、それでも俺は本当に………
どんな感情よりも先ず、嬉しくて堪らなかったんだ。
これからも『』は『』で居られる。
信長に、光秀に、皆に愛されて生きていける。
もうあの十参號という悲しい女は何処にも居ないんだ…って。
それなら俺も俺で在る必要はねえだろ?
だから光秀子飼いの間諜に成りきってやったよ。
『』に僅かな不安も与えねえ為にな。
あれ程に愛した十参號を自ら『様』と呼んだ時、俺の中でも全ての想いが浄化された気がしたんだ。
そして俺は十参號に永の別れを告げる如く『』に向かって頭を下げるとそのまま安土を後にした。