第5章 雨露霜雪【ウロソウセツ】
俺が十参號を破瓜させて、愛しくて堪らなくて………
だからこそ十参號を手放せると思った。
十参號はこんな薄暗く湿った世界からはきっぱりと足を洗って、この先は陽の当たる暖かい場所で生きて行けば良いんだと……
穏やかで優しい男を見付けて、其奴と所帯を持って……
『十参號』なんて言う醜い符牒は捨てて……
近い内に必ず、信玄様がそうして下さる筈だから。
その為ならば俺は、生涯を信玄様に捧げる事なんて他愛もねえ。
その後直ぐ、安土に隣接する小国が焦臭い動きをしていると報告が入る。
其の小国は以前から武田と深い遺恨が有り、武田家再興に進んでいる今、放って置く訳にはいかなかった。
当然三ツ者が総力を上げて諜報に勤しむ事と為る。
「すまないな、捌號。
この揉事が片付けば必ず………」
俺は悲痛に顔を歪ませる信玄様を宥め、その言葉を只管に信じた。
だが其の小国の奴等は俺達の想像を遥かに超えて、怜悧狡猾だったんだ。