第12章 振り向かない【紫原 敦】
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とうとう終わった受験。
合格発表まであと少し。
でも、受かってる気がするんだよね。
なんていうか、自信がある。
東京から帰ってきた後、なんだかんだで忙しくて紫原に会えなかった。
三年は自由登校で、掃除と片付けでしか行かなかった。
あっという間に、卒業式になった。
『──私達は、この学び舎を──』
長い長い岡村による答辞は、彼に似合わず厳かだった。
たまにはこういう彼があってもいいだろう‥‥と、思っていると。
『──ただ、唯一、心残りなのは‥‥』
「へ?」
ざわめきが広がる。
あっ、と思った瞬間には、もう手遅れだった。
『──ナゼじゃぁぁぁ‥‥!!! 同じ高校生なのに、あまずっぱい青春にこんなにも差があるのは不公平じゃぁぁぁぁ!!!』
彼の嘆きに卒業生が呼応する。
もう呆れて笑うことさえできなかった。
‥‥まぁ、うちはこんなものだよね。
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別の意味で泣いているのであろう岡村や淡々とした福井、陽泉男バスメンバーが集まっていた。
秋田らしく、晴れているのに雪が舞っている。
卒業証書がずっしりと感じた。
「終わりかぁ‥‥」
早かった。ものすごく。
無事大学にも合格できて、春からはこの場所を、生まれ住んだ町を離れる。
少し、寂しい。
「──倉永さん」
「あ、氷室」
「ご卒業、おめでとうございます」
「ありがとう。頑張ってね、主将」
「そういう弄り方は恥ずかしいな」
あーどうしよう。
泣けないって思ってたのに、泣きそうだ。
「倉永さんも、こっち来てください」
「えっ」
引っ張られた先は、男バスメンバーの塊。
「お、倉永」
「お前も立派になったわい」
「キモいアル。寄るの禁止アル」
「なんで!?!?!?」
あー変わらない。いつまでも変わらないでほしい。
「───どうぞ」
「‥‥これ‥‥」
差し出されたのはブーケ。
小さいけど、みんなからのメッセージが添えられていた。
「‥‥っ、ありがとう‥‥っ」
「な、泣くな泣くな、倉永」
「お前が泣いたらわしらが苛めてるみたいになるわい」
「苛めてきたのはゴリラだけアル」
「『苛めてきた』!?!?!?」
涙が止まらない。
いつのまにこんなに大切になってたの。
大好きだ、この人達が。