第12章 振り向かない【紫原 敦】
「っう‥‥くぅ‥‥」
「おいおい、泣きすぎだぞお前」
「だって‥‥っ」
こりゃ泣くよ。
ブーケを胸に抱いて、子供みたいに泣く。
すると、あんなに明るかった視界が、いきなり暗くなった。
「‥‥?」
「あ、紫原──」
────!?!?
「逃避行じゃぁぁぁぁ!!!」
「愛の逃避行アル」
紫原が私を引っ張る。
声をかけられないほど、ビックリしていた。
私が泣くとき、いつも傍にいるのは、あなただった。紫原。
──────---
「‥‥ちょ、止まって‥‥」
「あ、ごめーん」
全力疾走してしまった。
苦しい‥‥。
「つーか、今のはユキミちんが悪いし~」
「はっ!?」
「男の前で泣くとか」
「あれは、仕方なくない!?」
紫原はじーっと私を見つめた。
気まずくなって、目を逸らして背を向けてしまった。
「‥‥なんで、」
「ユキミちん、いっつもそう~」
「へ!?」
被った。
「俺が目合わそうとしてもすぐ逸らすし、どっか行くし」
「それは‥‥」
恥ずかしいからで‥‥
「そういうのムカつく」
「っ!?」
ぐいっと抱き寄せられた。
大きい大きい紫原の体は、私をすっぽり覆ってしまった。
「ちょ、」
「やっと近づけたと思っても全然会えないし」
「それも、」
「俺、しんどかった」
‥‥私もしんどかったし。
でも、相手のことを思ったら、きっとガツガツなんて行けない。
誰だってきっとそうだ。
「でも、今ここにいるし、いいよね」
「え?」
抱き上げられた。
ぐっと近くなった距離に、心臓のばくばくが止まらない。
「近っ」
「いーじゃん」
「っ! っ~‥‥!!」
久々のキスは、すごく熱かった。
どっちが熱いのかもわからない。
しかも止まってくれない。
「息‥‥っ」
「下手くそ~」
「うるさい」
酸欠寸前まで合わさった唇は、少しビリビリして熱かった。
「もういい~?」
「え、まだ!? ちょ、まって」
「むり」
この時間がずっと続けばいいのに。
桜の代わりみたいに舞う雪が、紫原の髪に乗る。
それを、払うように撫でた。