第12章 振り向かない【紫原 敦】
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───とか言ってたら、すぐに受験が来てしまった。
大学は東京の方にしようと思っている。
ああ、岡村と一緒。
本当に、卒業したらマジで離れるな‥‥
あれから一言も話せてないし。
自然消滅のオチが見えてきちゃったんだけど‥‥
「‥‥そもそもさ、あの時、別に好きとも言われてないんだよね。
あれって、もしかして紫原の友達への愛情表現てきな?」
『‥‥うん、そうかもな。
でも、それって今話すこと? 受験の前日に?』
「ああ、ごめんごめん。寝よう、おやすみ」
『おー』
こうやってバカみたいな話できるのも、もうすぐで終わるのか‥‥。
バカみたいな話をしてるのは、緊張してるからなのかな‥‥。
あああ、受験だ、準備万端にしないと‥‥。
今日から泊まり込みの東京。
ホテルの夜景はちょー綺麗。
紫原にも見せてやりたかったとつくづく思った。
「‥‥大丈夫かな、私‥‥」
不安がない訳じゃない。
さっきだって、誰かの声を聞きたかった。
でも、紫原に電話を掛ける勇気はなかった。
小心者だな、本当に。
「‥‥まだ起きてるよね、さすがに」
電話してみようか。
でも、迷惑だったら?
彼女面してるとか、思われたくない。
でも、掛けてみたい。
「よ、よし、掛けるぞ、掛ける掛ける‥‥」
震える指でスマホをタップしようとしたその瞬間───
───plrlrlrlrl‥‥
「っ!?!?!?」
表示されたのは、氷室。
なんで!?
「──っも、もしもし!?」
『ああ、こんばんは、倉永さん。
今東京でしたっけ?』
「う、うん。明日受験」
『そっか。頑張ってください』
「‥‥ありがとう」
わざわざ電話してくれたんだ、優しいな。
『アツシとさっきまで一緒だったんですけど』
「そ、そう」
『ずっと、倉永さんのこと話してましたよ』
「‥‥‥え?」
『好きなお菓子はポイフィルだとか、明日受験なのに電話掛けるのはアリだとかナシだとか‥‥』
───そっか。
「‥‥ずっと、恋人面してるのは私だけだって思ってた。
‥‥そっか‥‥そっかぁ‥‥」
うわぁぁ、なんだろう、泣けてくる。
声が聞きたい。
だって、もう2ヶ月も話してないもの。