第12章 振り向かない【紫原 敦】
でも、私と紫原は学年が最も離れている。
階だって違うし、部活が終わった今となっては、会う機会もない。
部活が終わった途端、受験モードに切り替えさせられて、差し入れも渡せない。
ここ1ヶ月、まともに会ってない。
しかもあと少しで卒業だし‥‥
もう会えないんじゃないか。
「お前と紫原なら、会えなくても何とかやっていきそうだけどな」
「私もそう思いたい。そう思いたいけどそうもいかない」
難しい。
こんなにちゃんとした、実った恋なんて初めてだから。
どうすればいいのかよく分からない。
あんまりしつこくて、嫌われても嫌だし‥‥
「今日くらいは様子見行ってやれば?」
「えー、福井も来てくれる?」
「暇だったらな」
黙ってパンを食べながら、窓の外を見た。
雪だ。
また積もるのかな‥‥嫌だな。
──────---
そそくさと帰りそうだった福井を引っ張って、体育館に来た。
‥‥来たのだけど、なんでこんなにコソコソ隠れて見てるんだろう‥‥。
「早く行けよ」
「待っ、押さないで」
「隠れることねーだろ?」
「差し入れも持ってきてないし‥‥」
「要らねーって」
「邪魔になると悪いよね!?」
「うじうじすんなよ、行けって」
「‥‥何してるんですか、先輩方」
「「うわっ」」
同時に振り向くと、そこには新キャプテンの姿があった。
氷室だ。なんかもう既に貫禄がある。
汗を拭きながら、そのイケメンは眉根を下げた。
「どうぞ」
「い、いやいや、見に来ただけだから」
「アツシが喜びますよ」
「‥‥え?」
「チョロい」
「うっさい」
そっと覗くと、ひたすらシュート練習をするあいつの姿があった。
あの頃と少し変わって、流す汗も惜しんでいない。
「‥‥行ってこい」
「‥‥ううん、いい」
「は?」
「本当に、邪魔したくないから」
水を差すようなことはしたくない。
私達は、それぞれの道を進むために今があると思うから。
干渉するべきなのは今じゃないよね。
「‥‥お前、大人になったな」
「何それ、子供だったみたいな言い方じゃん」
「まぁな」
まったく、この男は。
‥‥紫原、頑張って。
私も、頑張るから。