第2章 明日またね。 【宮地 清志】
ロッカーを開けても、そこには見るからに新しいタオルしか無かった。
手触りも良くて、臭ってもいない。
そしてその横には、置き手紙。
───『伝えたいこと伝えろよ!』
・・・・・・・・・あのバカ・・・・・・。
高尾くんには私が宮地さんに想いを寄せていることを伝えている。
『親友の相談なら嫌なんて言わねぇよ!』
って引き受けてくれたけど。
・・・余計なお世話っ!!
「? 何かあったのか?」
「!! いえっ!!!」
ロッカーの中を覗かれる前に、慌てて扉を閉めた。
・・・物凄い音したけど。
「──っ!!」
なんて。言ってる余裕無かった。
・・・・・・宮地さん、近い。
「っあの・・・」
「? ・・・・・・・・っ!!」
バッと目を背けると、やっとお互いの距離が分かったのか後退りした宮地さん。
「・・・悪ぃな」
「いえ・・・」
なんか、ぎくしゃくしてる。
体が沸騰してるみたい。
心臓が締め付けられる。
膝が震えてるような気がする。
「・・・・・・じゃ、じゃ・・・これで・・・」
「あ、あぁ」
違う。こんなんじゃない。
言いたいこと、他にある。
だけど、なんだかな。
喉に網が掛かってるみたいに、
苦しくて、言葉も出てこない。
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「──はぁぁぁぁぁあ・・・」
「・・・隣で盛大に溜め息をつかれるといい気分ではないのだよ」
「ごめん、緑間くん」
朝のHRにギリギリ間に合って、全身の力を抜きながら机に突っ伏す。
部室から全力疾走したら、そりゃあ溜め息の一つや二つ出るよ。
「・・・何かあったのか」
「! いや、別に・・・」
──何も、ない。
そう、何も無かった。
折角、高尾くんがセッティングしてくれた最高のチャンスも、私は踏みにじってしまった。
・・・酷い女だよ。
「・・・無理は禁物なのだよ」
「・・・ははっ。優しいなぁ・・・」
こんな女に優しくしてくれるあなたには、悟られちゃいけない。
もう誰かに迷惑かけるのは、嫌だ。
窓に当たってはストーブの熱で消える雪。
何だか、私と似てる・・・っていうのは気のせいか。
今は、宮地さんにも高尾くんにも、緑間くんにも、
“またね” すら言えない気がする。