第12章 振り向かない【紫原 敦】
───あ、今体育なんだ‥‥
───またお菓子食べてるし‥‥
───欠伸してる‥‥怒られるよ
───あー‥‥、遠いな‥‥。
──────---
「会いたい‥‥」
「え、なに、俺に?」
「違う」
会いたいも何も、今目の前にいるじゃん。
変なことを言ったこいつは福井。
時々変なこと言うが、いつもはまともだ。
「なんだ、また紫原かよ」
「うん。どうして1年なんだろう‥‥」
「どうしようもねーな」
お互い購買部で買ったパンを食べる。
黙々と食べているなか、頭の中はあいつのことだけだった。
私は3年、あいつは1年。
新入生歓迎会の時、初めて見たときは目が飛び出るほど驚いた。
2mの巨体はそこそこ居るけど、こんなに圧がある2mは初めてだった。
最初はどうもイケ好かない奴だったけど、バスケに対する熱は確かに感じられた。
そこが、かっこよかった。
「‥‥内に秘めたる情熱‥‥みたいな」
「あいつな。ちょー分かりづらいけどな」
分かりづらいとこがまたいい。
お菓子ばっかり食べて、最初はヒヤヒヤしてたけど、今ではそこも彼の長所かなって思う。
でも、私たちはWCで去った。
こんな言い方したくないけど、あの場所を離れざるを得なかった。
それが悔しくて。
もっとみんなといたくて。
もっと、あの場所にいたかった。
あの日、あの帰り、紫原は私をコンビニに連れ回した。
一番疲れてて、一番悔しいはずなのに、何とも分かりづらい表情で連れ回した。
『ユキミちん、好きなお菓子なに?』
『え‥‥ポイフィルかな』
『買ったげる~』
ふたりしてポリポリ食べた。
食べてる間、私は号泣で。
涙が止まらなかった。
もう明日からはあの場所で私のするべきことは無いんだって思ったら、悔しくて。
クシャクシャの顔でポリポリ食べる私の頭を撫でながら、あいつは言った。
『俺、ずっと傍に居てあげる』
涙が止まらなかった。
それがどんな意味か深くは分からなかったけど、その直後の、あの触れた唇で全部わかった。
涙が止まらなかった。