第11章 酔った恋人【花宮 真】
「‥‥ユキミ」
「なんですか」
「‥‥腕離せ」
「え、なんでよ」
「‥‥‥」
あー、説明すんのも面倒くせぇな。
「‥‥この体勢、キスしにくいだろバァカ」
「‥‥‥」
首に回されている手が、ぶわっと熱くなった気がした。
腰を持って引き剥がそうとすると、
「ダメダメダメダメ」
なんて叫ばれる。
「‥‥何でだよ」
「今はダメ。顔熱すぎる。こんな顔見せたくないです」
「別にそんなんどうでもいいだろ」
「え、ちょ、」
首に抱きついて離れないそいつを、
無理やり引き剥がす。
からかい倒してやろうと思っていた筈なのに、
そいつの顔を見たら何を言おうとしていたのか忘れてしまった。
「‥‥っ」
「‥‥顔赤すぎだろお前」
「う、うっさい!!」
涙目にまでなって腕で口を押さえるそいつに、何か変な感情が沸き上がってくる。
「‥‥お前が悪いんだからな」
「はっ? ──うわっ!」
その感情が今ここで溢れ出る前に、
ユキミを抱き上げて部屋を出た。
そのままベッドに押し倒す。
「‥‥は、花宮クン? え、するの?」
「悪ぃかよ」
「わ、悪いよ!! 明日も仕事なのに!!」
「‥‥今そんなことどうでもいいだろ」
「!? んぐっ」
ピーピーうるさく鳴くユキミの口を塞ぐ。
鳴くなら啼けよ。俺の手でな。
「っふ‥‥んっ‥‥あ」
「‥‥っそんな声出すな‥‥煽ってんのかよ‥‥」
「出るんだから‥‥仕方ないでしょ‥‥っ」
涙目で眉を下げるその顔は、
男の何かを煽るように感じた。
「‥‥怖ェ女‥‥」
「え?」
「何でもねぇよ」
無意識? か、こいつ。
自分が泣きそうになっていることに気がついたのか、袖で目を擦る。
あーあー、それじゃ袖が痛むだろうが。
「‥‥!!? え、何、ちょっ──」
「‥‥‥しょっぺ」
初めて舐めた涙は、案外悪くねぇもんだった。
しょっぱかったが、背徳感みたいなものがある。
当のユキミは、目を丸くして声も出ていなかった。
「ふはっ‥‥情けねぇ顔だな」
「っ‥‥な、‥‥な、何してくれてんのよ!」
「別に、俺の勝手だろ」
「そ、そういうのは本人の許可を取って‥‥!!」
「許可とか面倒くせぇし、いいだろうが別に」
「お、乙女的によくない!」
‥‥うるせぇな。