第11章 酔った恋人【花宮 真】
「‥‥なんですか」
「‥‥別に」
「真って素直じゃないよね~」
「‥‥キレるぞテメェ」
どういう下りで俺が素直じゃねぇって話になんだよ。
酔ってるこいつはよく分からん。
「‥‥‥あ、ちょっと。撫でるの止めないでよ」
「あ? ‥‥やめるわ」
「え、ちょ、頭痛するからマジで撫でて!」
「飲み過ぎだからだろ、バァカ」
ふわふわなその髪を撫でていると、
猫を撫でている気分になる。
こいつを撫でるときはいつもそうだ。
「‥‥落ち着くねぇ」
「ガキかよ」
「ガキの頃に戻れたらいいのになぁ」
「ふはっ、もう無理だな。諦めろ」
「あの頃に真に会えてれば、幸せをもっと早く知れたのになぁ」
「──」
‥‥‥。
──何かが、自分の中で揺れたのを感じた。
「‥‥撫でるの止めないでってば──」
不満そうに顔を上げたそいつの顎をぐっと寄せる。
いつもしている筈のキスなのに、
今日は少し柔らかく感じた。
「──ぶっは!!? な、何いきなり!?」
「はっ、酔い覚めたかよ」
「それが目的か!!」
いや、理由はよく分からねぇけど。
無性に、離したくねぇと思った。
ただそれだけだ。
「‥‥真」
「なんだ──」
からかわれるのがウザくて顔を背けていたら、頬に手を添えられた。
そのまま本日二度目のキス。
さっきまで香っていた酒の匂いが、
今はこっちまで変な気分にさせられる麻薬のように感じた。
「‥‥ふふ、お返し」
「‥‥やるようになったなお前」
「まぁ、真の彼女やるならこれくらいはね」
頬に添えられていた手が、首の後ろに回る。
そのまま、ぐっと引き寄せられる。
「‥‥今日のお前は素直だな」
「今日の真は素直じゃないね」
素直じゃねぇなんて、そんなわけあるか。
証拠に、自分でも気づかないうちにこいつを抱き締めていた。
「‥‥好きだよー、真さーん」
「あーそうかよ」
「‥‥ったく‥‥そこは『俺もだぜ』とか言うとこでしょ」
「はっ、そんな場面があるといいな」
こいつはやっぱり変な奴だ。
この俺が、いつのまにか自然体になっている。
取り繕う暇もなく、笑みになる。
──変な奴だ。