第11章 酔った恋人【花宮 真】
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「‥‥あいつ‥‥」
家に帰ると、鍵が開けっ放しになっていた。
あいつがこんなことするのは、『あの時』しかない。
「‥‥‥はぁ‥‥」
リビングに入ると、こたつに潜りながら座布団に突っ伏しているユキミが居た。
気持ち良さそうに寝息を立てながら。
「おい‥‥おいユキミ。起きろお前」
「すー‥‥‥んー‥‥」
「はぁ‥‥」
その手には空の缶ビールが握られている。
酒弱ェくせに飲むなよな‥‥。
仕方なく散らばっている書類やらをまとめていると、背中に重みを感じた。
「!?」
「へへ~‥‥おかえり~、真ぉ~」
「おうただいま‥‥じゃなくて退けろ」
「え~‥‥」
これは結構酔っている。
ここまで性格が変わったのは、あまり無い。
いつもは恥ずかしがって近寄っても来ねぇくせに‥‥。
「ねっねっ、そんなことより真も飲もうよ~っ」
そう言って、缶ビールをグビーッと傾けるが、中身が無いから出てこねぇ。
「もう無ェよそれ。もう寝ろ」
「え~、やだ」
「やだも何も、もう無ェんだから」
雪崩れるようにして、俺の胡座の上に頭が乗る。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥寝んなよ」
「はっ!!」
ったく‥‥。
こいつ‥‥いつもは俺が膝枕しろって言っても聞かねぇくせにな‥‥。
「ごめんごめん‥‥
‥‥あぁ~、真だ~」
「‥‥何言ってんだバァカ」
「そ、そこまで言うか‥‥」
しょんぼりと項垂れたかと思うと、
また抱きついてくる。
「‥‥離れろ」
「やだ」
珍しく即答。
いつもは最初に「え~」だの「ん~」だの入れるのに。
「‥‥真」
「んだよ」
「一緒お風呂入ろ」
「は、やだよ。お前酒臭ェし」
「酒臭いのは大人の証!」
「何言ってんだよ」
「えー、いいじゃーん。
‥‥それが嫌なら、まだこのままで居させて」
‥‥なんで今日はこんなに甘ったりぃんだ? こいつ。
しかも、俺の胸板に顔を埋めて、寝るでもなく何かするでもなく、そのままだ。
何がしたいんだよ。
する事が無い俺は、仕方なく月バスでも読むことにした。
「‥‥真さん」
「あ?」
「真って名前と正反対の性格してるよね」
「襲われてぇのかお前」
「ははっ」
服越しに笑ってるのが伝わる。
動かないその頭を、何故だか撫でていた。