第9章 あの子。【青峰 大輝】
────---
「‥‥‥はぁ‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥はぁ‥‥」
「‥‥‥倉永さん?」
空が青いなぁ‥‥オホホ‥‥。
「‥‥‥倉永さん?」
「ッはっ!! な、何でしょう!!?」
「っ!? い、いや、上の空だったから‥‥」
「ぜ、全然そんなことないよ!」
「は、早とちりしてスミマセン!!」
「あああ謝るな、桜井くん!!」
空が青いなんて言ってる場合じゃないでしょ。
桜井くんに迷惑をかけるわけにはいかない。
「こっちこそごめん‥‥‥迷惑かけて」
「‥‥‥」
‥‥‥‥‥‥ん?
いつもは聞こえてくる声が聞こえない。
不思議に思って顔を上げると、その目に真剣な眼差しを宿した彼がいた。
「‥‥‥倉永さん」
「!」
「‥‥‥青峰くんのこと、だよね?」
「!?!?」
「何か悩み‥‥‥あるんだよね?」
──なんだよ、いつもは謝ってばっかりいるくせに。
何で、こういう日に限って──
「っ‥‥‥」
胸の奥が苦しくなったのは、きっとあれのせい。
目尻が熱くなったのも、
涙袋から溢れてくるような感覚も。
「‥‥‥わたし‥‥っ」
「‥‥‥うん」
「‥‥‥もう‥‥っ」
───あの人とは、何もないかもしれない。
そう考えたら、苦しくなる。
何もなく。
ただ、名前をいつか少し思い出すくらい。
あの人とあの子が家庭を持ったとき、いつか少し話題に出てくるだけかもしれない。
そう考えたら‥‥‥
「──‥‥‥悔しい‥‥‥ッ!」
何もないなんて。
あの人は、私が自分のことで泣いているなんて分かってもいないんだろう。
それも悔しい。
あの子になりたい。
あんな風に、自分に自信が持てたら‥‥‥
「──僕もだよ」
「──‥‥‥え?」
自虐するように、桜井くんの口が開く。
「僕も‥‥‥自分に自信が持てたらなぁ‥‥‥」
そうしたら、苦労ないのにね。
そう笑った彼は、どこか自分を慰めているようにも思えた。
桜井くん‥‥‥君は強いよね。
私はこんなことですぐに涙を流してしまうけど、
君は辛そうでも泣いたりしない。
「‥‥‥何言ってんの。桜井くん、かっこいいじゃんか」
────---
「‥‥‥」
そんな私たちを、誰かが静かに見ていた。