第9章 あの子。【青峰 大輝】
「‥‥‥倉永さん?」
「まじでどうしたコイツ」
白目は解消し、目の前の相手をまじまじと見つめる。
周りの1年生よりも少し大きい体格。
日に焼けた肌。
鋭く光る目。
さらさらと揺れる濃紺の髪。
──間違いない。青峰大輝だ。
「‥‥‥なんだよ」
「! はっ!!」
じとーーっと見つめられ、我に返る。
ダメダメ、第一印象は大切にしないといけないって、13歳の魔女ちゃんが言ってた。
「は、ははじめまして! 倉永ユキミと申しっます!!」
うわ声裏返った。
ダメダメじゃん。第一印象ボツったじゃん。
この思い出を箱に詰めて封をしたい。
そして箱に書く。『パンドラの箱』と。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
桜井くんまで黙らないでよ。
いやあ、どうすればいいのこれ。
「‥‥‥青峰大輝。じゃあな」
「!」
行くぞ、と桜井くんを急かす青峰くん。
桜井くんとも別れを告げて、ひとり教室に残された。
「‥‥‥はぅわぁ‥‥‥」
‥‥‥自己紹介、された。
本人から!
名前を!
聖なるお母様がつけてくださったお名前を!
──聞くことができた!!
しかも『じゃあな』って!
どういうことよ!
こんな勉強できない私にも神様は贈り物をくださるの!?
voiceという名のgift!
さっきから英単語ばっかり出てくるんだけど!
「‥‥‥はぅわぁ‥‥‥」
─────---
その日から、私は浮かれてた。
夜寝る前に『じゃな』を思いだし、
朝起きてすぐ『じゃな』を思い出す。
変態じゃない。恋する乙女はこうなるのだ。多分。
今日も会えるだろうか、とワクワクする。
でもきっと、これは叶わぬ恋だから。
卒業するまでくらいは、私に機会をお与え下さい。神様。
それにね。
あの人には、いつも可愛いあの子がいる。
二人は仲良さそうだし、お似合いだから、きっと付き合ってるんだろう。
ジェラシー? そうかもね。
だけど、奪ってやりたいとかはない。
青峰くんがそれでいいなら、私もそれでいい。
‥‥‥なんて、いいコちゃん過ぎるかな‥‥‥。