第8章 毎日恒例 【黄瀬 涼太】
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結局、どうすればいいのか分からずじまい。
このまま自然消滅もあるかな・・・
「ユキミっち~」
「ぅわあ!!?」
「そんなに驚く!?」
部室の掃除を終え、窓を閉めていた丁度その時、そいつは現れた。
「き・・・黄瀬涼太・・・」
「なんでフルネーム!?」
自分でも分からない。
っていうか、なんでここに・・・
「ユキミっち、帰ろうッス」
「え・・・あ、・・・え?」
か、える?
「嫌ッスか?」
「嫌、じゃない・・・けど」
黄瀬、もう怒ってないの?
気まずいと思ってるの私だけ?
「けど?」
「・・・・・・怒ってない?」
「え?」
すっとんきょうな声を出す黄瀬。
まさか、昨日の喧嘩を忘れてしまったんだろうか。
「喧嘩・・・。私、余計なことばっかりして・・・」
そうだ。
どう仲直りしようか、とかじゃなくて、黄瀬の男心を分かろうとしてなかった。
これじゃ、また同じような事で喧嘩する。
「分かってあげようと、してなかった、のは、私で・・・いつも、黄瀬は私のこと、分かってくれてたの、に・・・っ」
あぁ・・・言いながら泣けてきた。
胸の奥が軋むように痛くて、顔を上げられない。
もし、目の前で冷たい目をしていたらとか・・・思ってしまう。
「・・・っ、ごめん、黄瀬・・・っ───!」
鼻孔を黄瀬の香りが掠めた。
誰かに抱き締めてもらえたとき特有の重みが全身に伝わる。
「・・・・・・?」
黄瀬のジャージの肩口に、点々と染みが出来てく。
「・・・泣かないでほしいッス・・・」
あぁ、これ、涙だったのか。
「ユキミっちの優しさを無下にした俺だって悪いッスよ・・・格好悪いッス」
「な、何言ってんの!! 黄瀬は格好悪くなんむぐっ!?」
聞き捨てならない台詞だった。
だけど、反論する前に肩で口を押さえられる。
「男にとっては格好悪いんスよ・・・好きな女だって泣かせて」
「・・・そんな」
私が勝手に泣いてることなのに。
あぁもう、どうして?
「どうして、そんなに優しいの・・・」
泣けてくる。やめてほしい、本当に。
「ユキミっちの方が優しいじゃないッスか~」
あなたに比べたら私なんて、義務的な優しさだ。
こういう、内側から溢れ出る優しさじゃない。
そういう所に、惹かれてしまう。