第8章 毎日恒例 【黄瀬 涼太】
「っ、ごめん・・・っ、黄瀬・・・」
情けない声が涙と一緒に流れ出る。
止められない。悔しい。
「・・・ユキミっち、顔上げて」
「っ・・・」
そういう声も憎たらしい。どっから出てきてんのよそういう声。
「ん・・・っ」
心の内で悪態をついてみるけど、黄瀬を拒もうなんて思えなかった。
されるがままに、唇を奪われる。
「・・・ユキミっち・・・、俺・・・」
小さなリップ音と共に、弱々しい声が口元を掠めた。
「喧嘩ばっかでもいいから・・・ユキミっちとずっと一緒に居たいッス」
「っ・・・私も──んぐっ!?」
睫毛が当たりそうな距離で見つめられるのは心臓に悪い。
だけど・・・そういう言葉を言われる方がもっと心臓に悪い。
今まさに、心臓がマラソン以上にバカ鳴りしている。
食むようにキスが続く。
恥ずかしさで口が堅く閉じてしまう。
「・・・ユキミっち、口開けて」
「っ!?」
黄瀬の・・・舌? が唇をつつく。
顔を背けようとしたけど、手が添えられてしまった。
「・・・」
「・・・?」
うっすらと目を開けると、不機嫌さ丸出しの子供みたいな顔が目の前にあった。
この顔・・・可愛い・・・!?
・・・可愛いな!!
「っふふ・・・」
「?」
「っ黄瀬・・・ぷっ・・・可愛いなぁ」
「なっ!?」
いとおしさに駆られて、その体をぎゅっと抱き締めた。
「ふふっ・・・黄瀬~」
「っもう、空気読んでほしいッス!」
そう言いながらも、抱き締め返してくれる。
首に腕を回しながら、そのさらさらのブロンドを撫でた。
「・・・っ!? ひあ!?」
小さな違和感は、大きな刺激になってしまった。
首筋から背筋を伝って腰に響く。
「なっ、何すんの!!」
「ん~?」
「っ・・・や、め・・・っん」
耳の裏から首筋を軽くキスされる。
恥ずかしすぎる!
「~っ、黄瀬!」
「じゃあキスしてほしいッス」
「!?」
なんだその条件。
「──なんて! 返事なんて待たないッスけど!」
「! ぅわ!?」
押し倒された瞬間から連続キス攻撃をお見舞いされてしまう。
「んぅ~~!?」
「ほら、舌! 出すッスよ~」
「!? んむっ──」
いつまで経っても、私は先輩らしくなれないんだろうか。
【END】