第8章 毎日恒例 【黄瀬 涼太】
『寝ながら打ってる?』
『半分寝てる』
やっぱね・・・。
『ごめんね、ありがとう。おやすみ』
『謝るか礼言うかどっちかにしろよ。おやすみ』
暗くなった液晶に自分の顔が映る。
私・・・なんて情けない顔してるんだろ。
───────---
翌日。今日は土曜日だから部活だけ。
黄瀬とは相変わらず何もないし、喧嘩してるまま。
今までと変わらないはずなのに、なんだか今までとは違う気がした。
「はぁ・・・」
「ん? 溜め息か?」
「森山・・・」
ボールを磨いていると、汗を拭いている森山が隣にいた。
この人も私と黄瀬が喧嘩ばかりしていることを知っている。
「また喧嘩か? よく飽きないな」
「はぁ・・・黄瀬に飽きられたらどうしよう」
「・・・今回も面倒くさそうだな」
森山にこんな風に言われるなんて・・・ショック。
「そんなに気になるなら本人に訊けばいいんじゃないのか?」
「それが出来ないから困ってんのよ・・・」
またひとつ溜め息をつく。
その拍子に──
「あっ」
──ボールを落としてしまった。
慌てて拾おうとしたけど、ボールは転がっていってしまう。
そして・・・
「──!」
黄瀬の足元で止まった。
あぁもう・・・。
「・・・ん?」
黄瀬も自分の足元にボールがあることに気がついたみたいだ。
危ないから拾わなくちゃいけないけど、何故か足が動かない。
「誰のボールッスか~?」
「倉永が磨いてたやつだ」
「っ!?!?」
も───森山!!?
な、なんて、なんてことを──
「そうだったんスか」
ひえー、なんて言えば──
「──はい! ユキミっち!!」
・・・え。
腕の中にストンとボールが収まる。
何が起きたのか分からなくて、返事も出来なかった。
「・・・・・・ありがとう・・・?」
「なんで疑問系」
隣の森山は「普通じゃないか」と真顔で告げる。
そう、普通。
・・・なんで、普通なの?
「・・・怒ってないの?」
どうすればいいの?
そもそも、何が原因で喧嘩してたんだっけ。
黄瀬が随分大人に見えてしまう。私の方が先輩なのに。
もしかして、私・・・子供っぽい?
そう思うと、自分が惨めになってくる。
黙っている私をどう思ったのか、森山が真顔で頭を撫でてくれた。