第7章 INTOXICATION 【灰崎 祥吾】
オレを見つけたそいつは目を見開く。
「誰よ・・・・・・って、ふ、福田総合の灰崎!!?」
くるくると毛先を弄んでいた取り巻き女は額に汗を浮かばせた。
そいつも足を微妙に震わせている。
そんなに有名なのかよォ、困っちまうなァ。
「い、行こう、ユキミ・・・
───!!? ちょ、」
さりげなく腕を絡めた女の腕を振り払う。
あいつは虚ろな目のまま、オレを見つめていた。
「な、何、すんのよ・・・」
「あぁ・・・悪ぃなァ、こいつオレのだから」
「は?」
信じらんない、とでも言うように睨み付けられる。
まぁ、嘘だから間違ってねぇけどな。
「だから・・・手ェ離せよ」
「・・・プッ、何言ってんの!? バカなの!? ユキミがあんたなんか選ぶはずないじゃない!」
甲高い声が頭に響く。
何か言いたげなそいつにジロリと目線を送った。
『 合 わ せ ろ 』
ビクリと肩を跳ねたそいつは、まだ笑いあげているその女にこう告げた。
「ごめんね、本当なの」
と。
空気も、女も、すべてが凍りついたような静寂。
バカ笑いをしていたそいつは、目を見開いたまま絶句する。
「・・・嘘・・・でしょ・・・?」
別の意味でか何なのか、取り巻き女の足は震え始めた。
額に浮かんでいた汗が頬を滑る。
「あは・・・はは・・・、ね、嘘だよね? ユキミがこんな男・・・
わ、私は!? 私はどうなるのよ!!」
こいつ・・・まさかのレズか?
友情絡みのしつこさかと思ってたが、まさかの本命か?
「ごめんね、カコ・・・わたし、この人と付き合ってるの」
そしてこいつの演技力。
咄嗟とはいえ、すげぇな、女って。
「嘘・・・嘘よ・・・信じない・・・」
涙まで浮かべて懇願するように見つめているが、首を横に振ってもらえない。
真実なのだと気がついたそいつは、オレに鞄を投げつけた。
「あんたのせいよ!!!!
あんたなんかがユキミに近付いたから!!」
オレのせいかよ。
オレに当てた鞄を拾い上げて、その女は走り去る。
溜め息をついて、オレも立ち去ろうとした。
だが。
「あの!」
「・・・あァ?」
フラフラとオレに近づいたそいつは──
「──!!!? おい──」
──パタリと。胸の中に倒れ込んだ。
・・・まじかよ。