第6章 幸せな家族 【虹村 修造】
「!!?」
「はぁぁぁぁぁ・・・」
(なんで溜め息つきながら抱きつくんだよ・・・)
別に嫌なわけではない。決して。
ただ理解不能なだけだ。
「な、なんだよ・・・変な夢見たのか?」
「うん」
(即答・・・)
修造の香りに混じった外の空気を吸い込みながら、リピートしている夢に身震いする。
「・・・にじむーがね・・・」
(俺が?)
そんなに深刻そうな話なのか。
珍しく背中に変な汗をかく。正夢じゃないといいと願いながら。
「───会社遅刻した夢見たの・・・。
あー、怖かった」
(・・・あ?)
かいていた汗が急激に冷めていくのを感じた。
張りついていたシャツがさらさらになっていく。
「・・・遅刻」
「そう。遅刻」
「・・・俺が」
「にじむーが」
「・・・遅刻」
「そう。遅刻」
「・・・」
「いたっ」
正直言って、心配して損した。
そりゃまぁ会社を遅刻するのはやばいが、そんな泣きそうになるほどのことじゃないだろう。
その全ての思いをデコピンに託した。
「デコピンすることないじゃんー」
「そんな顔すんな。誤解したろ」
「えー・・・・・・あ、そうだ。今日肉じゃがー」
「おー見た」
改めて炊飯器を覗き込んだ。
その少なさに愕然としながら。
「・・・白米、少なくね?」
「あー・・・ここら辺、売ってるとこがなくて・・・ねー?」
「ねー? じゃないだろ。仕方ねぇことだけど」
うんうんと頷きながら皿のラップを剥がしていく。
まだホカホカのもあったことに安心。
「・・・あ、そうだ!!」
「?」
「ごみ捨て! 行った!?」
「あー、朝忘れたから昼取りに来た」
「え、帰ってたの。ていうか間に合った?」
「お前、親父のとこ行ってたろ。まぁ、間に合った」
「はぁーよかった。さすがうちの旦那さん」
「茶化すな」
「褒めてんのにー」
ぶーぶー言いながらも、二人同時にいただきますをする。
久しぶりに食べた肉じゃがに人参が入ってなかったことに気づいたのは、もう少し後の話だ。
「・・・人参は?」
「・・・・・・・・・無いねー・・・・・・・・・あ」
「・・・・・・忘れた?」
「・・・忘れた・・・」