第2章 明日またね。 【宮地 清志】
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「──はぁっ・・・はぁ・・・っ」
携帯を握りしめたまま、校舎を駆けていく。
高尾くんからのメールには続きが。
《宮地さん これから大学のセミナー的なのあるらしいから 待っても10分》
その間に片つけろよ
───そういう意味なんでしょ?
面と向かってそう聞けばきっと、「まぁな」って笑うんだろうけど。
高尾くん・・・どうしてそんなに・・・。
『早く行け』
緑間くんも、そうやって促してくれた。
何で貴方たちは、そうして私を見守ってくれるの。
体育館が見えてくると、走馬灯のように全てが甦るような気がした。
──初めてバスケに触れて。
知らない巨体に囲まれて。
かっこよさとか、頼もしさに気付いて。
宮地さんを目で追ってて。
初めて男友達が出来て。
「っ・・・はぁ・・・」
扉の前で呼吸を整える。
心拍数が上がって、心臓が飛び出しそうだ。
───ギィ・・・
扉を開ければ、懐かしい風景に、懐かしい人が立っていた。
やっぱり学ランが世界一似合うのはこの人だ。
「・・・ユキミ・・・」
「っ・・・」
生唾を飲み込んだ音が全身に広がる。
あ、前髪整えておけば良かった。失敗。
せめて、最後くらい可愛い自分で居たかったのに。
「・・・ご卒業、おめでとうございます」
「・・・ありがとな」
小さく笑った顔を見て、再確認する。
「──先輩」
「──ユキミ」
「「!」」
うっ・・・気まずい。
「ど、どうぞ」
「いやお前から」
「いえここは先輩から」
「いや大したことじゃ」
「私もです」
ダメだ、埒が明かない。
「・・・せーので言うか」
「お、いいですね」
「・・・じゃあいくぞ」
───今まで、ありがとうございました。先輩。
せーの、
「好きです」
「好きだ」
ぴったり重なってしまった言葉。
語尾は合うわけがなかったけど、最初の2文字が合っただけで泣きそうになる。
「・・・知ってたよ」
「・・・っ嘘・・・」
頭に手が乗せられる。
「お前顔に出やすいし」
「・・・そんなことないですよ」
ぐしゃぐしゃに撫でられた。
「・・・第2ボタンは残しておきたいからよ。この花、やる」
「え・・・」
先輩の制服に刺さっていたブートニア。
セーラー服にパチッと付けられた。