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【S】half a year(気象系)

第1章 ◆Fly high◆(執事サイド)



俺は、構わなかった。

一線を越えてしまった以上、怖いものなど何もない。彼女が本当に望んでいるのであれば、それこそどんなことでもして差し上げる覚悟はあった。

ただ



彼女の品位を貶めることだけはしたくなかった。

駆け落ち
略奪

批難されるのが自分だけであれば、迷わず実行していたかもしれない。

しかし北条家のネームバリューがありすぎて、いろいろ見方はあれど結局は…“花嫁の逃亡”になってしまうだろう。

北条家の名前に泥を塗ることになるとか、そういうことも考えなかったわけではない。彼女に捨てさせるものの大きさが俺なんかとは比べ物にならないことも重々わかっている。


だが何よりも

俺が、嫌だったんだ。


『ねぇ、知ってる?北条家の…』
『あ~、ねぇ?結婚直前に駆け落ちしたんでしょ?よくやるわよねぇ』
『しかも相手は自分の執事だっていうじゃない!』
『執事なんかに手を出すなんて…。よっぽど――…』


想像は容易にできる。そしてそれは、想像でも俺にとって耐えがたい苦痛だった。

美月お嬢様が誰かにそういう目で見られるということが
面白半分で噂のネタにされたりすることが

それはどうしても許せなかった。

だから





…ってことにしておきたい。


考え出すともう、わからなくなるんだ。


この選択が正しかったのか


そもそも

何が正しかったのか





…やめよう。

また迷宮入りしてしまう…。


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