第1章 ◆Fly high◆(執事サイド)
「すみません。コーヒーを」
確かに人のものになる前ではあった
が
明日結婚するとわかっていながら、彼女の純潔を奪ったのは紛れもない事実。裏切り、といわれても仕方がない。14年で培った信頼なんて一瞬で吹き飛ぶような大罪。
その重大さはわかっている。
わかった上で
俺は
「ありがとう。……あっチッ!!!!」
焼けるような痛みが舌を焦がす。幸運にも服にはこぼさないで済んだが…。
「あ、大丈夫、大丈夫です。…ええ。申し訳ない」
…全然大丈夫じゃない。ジンジン、ビリビリと舌がしびれてる。上唇も…イッてんな、これ。早くも皮が…
ああ
わかってる。
もう手遅れだ。
すでにいろんな部分が焼け焦げている。
それでも
どんな痛みをも一瞬にして麻痺させるほどの
あの甘い感覚を思い出すと
うっかり現実を忘れて飲み込まれそうになる…。