第1章 ◆Fly high◆(執事サイド)
『はい?』
『だから。1回くらい、経験しておいてもいいかなーって』
『…』
『…』
『はい?』
『だからぁっ』
半ギレの美月を、俺はただただ、バカみたいに見つめていた。
だって
あり得ないから。それこそ「夢でもみてんのか俺は?」っていう内容だったから。
今より若かったからってのはある。俺自身、もちろん血の気も多かったし、ソッチの気も盛んだったし…(今が衰えてるというわけではない。念のため)。
だからって、お願いされたことを何でもハイハイきいていたわけではない。いくら若くても、そのあたりの節度ってものはわかってた。
だけど
俺は知ってたから。
その前日の二十歳の誕生日に、彼女がたくさんのお祝いの言葉とともに贈られたのは
自分の結婚相手がすでに決まっていたという、未来。
そう。
彼女はずっと知らなかったのだ。厳密に言えば彼女と妹の美羽以外は全員が知っていた、変えようのないその現実を。