第1章 ◆Fly high◆(執事サイド)
「…始まったかな…」
12時
魔法が解けるその時刻、彼女は名実ともに“北条家のお嬢様”でなくなる。
いわば剥奪の儀式。
いや
開封の儀式、か。
長年閉じ込められていた箱から、ようやく解放されるのだから。
純白の羽根を纏い、この世のものとは思えぬほど美しい出で立ちで、ついに今日、彼女は羽ばたいていく。こんなに喜ばしいことがあるだろうか。
こんなに、喜ばしい、ことが…
わかってはいた。
戯れ。
子供同士のままごとみたいな誓いに、何の意味もないことなど。そもそも、あり得ないことだから。私が出会ったときにはすでに…いや、あなたにしてみれば、生まれた時にはすでに、嫁ぎ行く先は決まっていたのだから。