第5章 「恋」
その様子を見て、天海が困ったように笑った。
「すいません、何も考えずに触れちゃって」
『…ううん、全然大丈夫』
どこかよそよそしい2人。その空気を眺めていた王馬が、ねぇ逢坂ちゃん!と呼びかけた。
「もしかして逢坂ちゃん忙しい?せっかく新しいゲーム買って来たから、一緒にやろうと思ってメンバー集めて来たんだけど…チョコ作りしないといけないみたいだね。オレの口に入るんだし、邪魔するわけにいかないかー」
『え?私は作ってないよ』
「……えっ?ダメだよ!ゲームは勝手にオレらでやってるから、逢坂ちゃんは美味しいチョコ作ってくれないと!」
『作る前にまず監視しないと…夢野、牛乳飲む?』
「気、気がきくのぅ…」
逢坂が牛乳をグラスに入れる。天海たちにもなんか飲む?と聞いたところ、最原がキッチンに入ってきた。
「僕が運ぶよ」
『ありがと』
「今年も2人で作ってたんだね」
『うん、夢野は飛び込みなんだ。お楽しみに』
「え、くれるの?」
『私は時間があればって感じだけど、赤松は頑張って作ってるよ』
「…ありがとう、楽しみにしてるよ」
『今年はなんだか彼女の腕に磨きがかかってるから、胃の準備をしといてね』
「……?…わかった」
ちら、と夢野を見ると、彼女は王馬を気にしながら、チョコを刻む作業を続けている。王馬はそんな視線を知ってか知らずか、オレがこの前置いてったグラスはー?飲みかけのプァンタはー?と逢坂に問いかけてくる。
(…グラスも目に入るところにあるし、プァンタが冷蔵庫にないわけないよな)
意味のない質問をしてくる王馬の真意が、なんとなくわかった気がした。
(…でもそれに協力すると、天海が嫌な気分になるよなぁ…)
「逢坂ちゃん、昨日オレが置いてったプリン食べたでしょ。もー、楽しみにしてたのに!」
『昨日自分で食べてたでしょ。巻き込まないでください』
「…巻き込むって何がー?」
王馬は少し不機嫌そうに睨め付けてきた。逢坂は、王馬と逢坂の距離感を夢野に伝えようとしている王馬に知らないふりをして、チョコを刻む夢野の手伝いを始めた。赤松も落ち着き、結局全員でダイニングテーブルを囲む形になっている。