第5章 「恋」
「完全にみんなで遊ぼうって誘われたんだと思ってたよ最原くん…せっかく雪に協力してもらったのに…」
正確には協力したわけではなく、その最原と赤松の誘いのメッセージを見たのが事後だったのだが、都合がいいので黙っておくことにした。
「では、赤松は最原にチョコを作っておるのか。なんじゃ、2人とも浮いた話があって良いではないか」
「夢野さんは?そのケーキ、出来たら誰にあげるの?」
「んぁっ。そ、それは……秘密の秘密子ちゃんじゃ」
『秘密ってことは私たちが知ってる相手に向けてなんだ』
「……んぁぁ……そ、そんなことはないぞ……ウチは、義理難い女の子じゃからな…ただの、義理で作ったチョコを渡すに過ぎん」
『チョコじゃなくてチョコケーキでいいの?そして今更だけど、2人とも一緒に作ったら完成品同じになっちゃうけど、それは本命を渡したい君たちにとっては結構な痛手では』
た、たしかに!という赤松と、んぁぁ〜と顔を青ざめさせる夢野の声がハモった。逢坂はレシピを見て、チョコケーキを自分で提案してきた赤松はそのまま継続、チョコレートにこだわりを見せる夢野は新しくチョコを溶かそうと指示を出した。
「雪は作らないの?」
『……うーん……悩んでる』
「えっ、誰に渡すか?」
『いや、誰かの前に…まず渡すか、渡さないか。私人にプレゼントするの嫌いなんだよね』
「中学の時は、最原くんにあげてたよね」
『……あげて……たわ。楓があげるから渡さないのも冷たく思われるかなと思って。でも今年はクラス違うし、誰かと遊ぶ予定もないし』
でも、予定がなくても押しかけてくるやつはいたな、と逢坂は考えを改めた。
「じゃ、じゃあ今年は最原くんにはあげないの?」
『……んー…決めていいよ。あげない方がいいの?』
突然決定権を委ねられた赤松はびっくりしたのか、さっくりと自分の指先を切ってしまった。
『あーちょっと、ピアニストがなにやってるの。大丈夫?』
「いたた…大丈夫、ちょ、ちょっとなんで私に聞くの?そんなこと一言も言ってないでしょ?」
『言わなくても不安そうな顔してるから』
「あげた方がいいよ。最原くんいつも嬉しそうに受け取ってくれるし…。うん、私も負けないように美味しいケーキ作らないと!」